山釣りの装備
長い吊り橋を渡る。それは岩魚の楽園への入り口だ

岩魚の楽園には里川を釣るような装備では辿り着けません。日帰りで帰って来られるような場所には岩魚の楽園はないからです。ということは必然的に山で泊まることになります。そのために必要な装備を紹介します。

●アタックザック

野営するための装備をすべて詰めるとなると、最低でも55リットル、出来れば65〜75リットルのザックが良いでしょう。そしてなるべく横にポケット等の張り出していないタイプのものを選びましょう。なぜなら横に張出があると藪こぎのときに引っ掛かり、余計な体力を使うことになるからです。ただでさえ疲れているのに、ザックが藪に引っかかってしまっては精神的にまいってしまいます。
メーカーはいろいろありますが、ブランドにこだわらず、実際に背負ってみてもっとも自分にフィットするものを選びましょう。


●テント
さて、野営するからには寝る場所が必要です。
野外で寝るとなると、真っ先に思い浮かぶのはテント。ですが、私たちはテントは使いません。テントは持っていくのが重たいのがその理由です。
あれば確かに快適ですが、一人用で軽いのでも1.2Kg以上。荷物は軽いに越したことはありません。

●タープ

タープとはテン場(野営地)の上に張る天幕のことです。
私たちはテントは使わずに、タープだけです。
私たちが持っていくのは、薄くて丈夫なナイロン製のものです。これを立木などにザイルを張って設営します。
ちょっと重たいですが、ブルーシートでも代用できます。
地面にはブルーシートを敷きます。その上でみんなでゴロ寝です。

●シュラフ(寝袋)

寝袋にはダウンと化繊のものがあります。それぞれ一長一短があります。
私はダウンのスリーシーズン用を使っています。ダウンの長所は温かいこと。意外と夏でも寒いときがあります。寒がりの私にはダウンの寝袋が一番です。
そして収納時がコンパクトなことです。収納時は化繊のペラペラの寝袋と同じくらいの大きさです。
ただ、ダウンの短所は濡れたら使えないこと。絶対に濡らしてはいけません。ザックの中に防水のスタッフバッグを入れ、寝袋はさらにポリ袋に包んで仕舞います。
化繊の寝袋は最悪濡れたとしても、なんとか使えることです。あとは値段の安さですね。もちろん濡らさないに越したことはないので、防水対策はダウンと同じです。
化繊の寝袋はギュっと畳んでも相当デカイです。ダウンと同じ温かさを求めると、かなりの大きさになってしまいます。

渓で食べる「そうめん」の味は格別だ

●コンロ

山に持っていくコンロは、なんと言ってもガスにかぎります。ガソリンや灯油等様々な種類のコンロがありますが、一番軽いのがガスです。また、点火する際にプレヒート(予熱)が要らなくて手軽な点も優れています。ガスの欠点はボンベが嵩張ることと、ボンベの互換性が無いことです。必ずバーナーヘッドと同じメーカーのボンベを使ってください。また、ボンベの残り量が解らないのも困り者です。山に入るときは必ず新品のボンベを持参しましょう。そうしないと私たちが経験したように料理の途中でガス欠になり、硬くてまずいラーメンを食べることになるかも(^^;
しかし、ガスコンロはあくまで補助として考えてください。メインは焚き火です。そして、これが一番大切なことですが、使い切ったボンベは必ず持ち帰ること。山に捨ててくるような人に山釣りをやる資格はありません。


●コッヘル(鍋)

アウトドアショップに行けば必ず売っていますが、なかには何種類もセットになっているものもあります。しかし、実際には鍋が2つもあれば足ります。ヤカンなどは間違っても持っていかないように。お湯なら鍋で沸かせば事足ります。
材質はチタンが理想ですが、値段が高いのがたまにきず。アルミならばそこそこ軽くて値段の安いものが手に入ります。
あと、余裕があれば小さなフライパンがあると、料理の幅が広がります。


◇服装

登山道を歩いたり、渓を遡行したりするわけですから、当然動きやすいものが基本になります。

●シャツ、ズボン、下着

上に着るシャツは長袖にしてください。半袖だと虫に刺されたり、木の枝等で怪我をすることも考えられます。ズボンは登山用の水切れの良いものがいいでしょう。
シャツ、ズボン、下着ともに綿100%のもの絶対やめましょう。綿は濡れると乾きが遅く、水を吸いますので重くなってしまいます。服がビショビショだと体力をどんどん消耗してしまいます。下手すると低体温症になります。
ポリプロピレン(ポリエステル)製のものが登山用品店にありますから、そのなかで気に入ったものを選べばよいと思います。

ウェーディング・シューズ ネオプレーン靴下とスパッツ

●足周り&その他

靴は底にフェルトを貼ったウェーディング・シューズが一般的です。これにネオプレーン製の靴下とスパッツを組み合わせます。間違ってもウェーダーなどを持っていかないようにしてください。ウェーダーは濡れないので快適ですが、重たいのと腰以上の渡渉があったら中に水が入ってしまい非常に危険です。
それと、ウェーディング・シューズならば何でもよいわけではありません。ウェーダーと組み合わせるタイプのシューズでは重いばかりでなく、ヘツリや高巻き等がやりづらく危険です。必ず沢登り用のシューズにしてください。
また、手を保護する為に手袋も必要です。渓を遡行していると、当然岩や木を掴むことがあります。そのときに素手だと切ってしまいます。手袋はネオプレーン製のがよいでしょう。軍手でもかまいませんが、濡れるとブカブカになって、あまり気分のよいものではありません。


●帽子

私たちの仲間で帽子をかぶる人はほとんどいません。だいたいがタオル等を頭に巻いています。頭の保護からいうと、ほんとうは帽子のほうがよいのですが・・・。


めったに人の来ない源流には大物がウヨウヨしている。
ここでのアベレージは尺一寸だった。 山形県八久和川上流

◇釣りのための装備

さあ、やっと釣りに関係する項目になりました。これがなければ、ただ山を登って渓を遡行して終わってしまいます。私たちは釣り人です、たとえ岩魚が釣れなくても竿を出すだけでも満足できます・・・よね(^^;
ただ、私はエサ釣りしかやらないので、その他の釣りをやる人にはアドバイスできませんので、あしからず。

●竿

源流の大岩魚を相手にするには半端な竿じゃ歯が立ちません。といっても十万円もする竿じゃなくてもよいのですが、取り込みを考えると硬調の竿が一番です。里川のように足場がよいところならば柔らかめの竿でも大丈夫ですが、源流では一歩も動けないような所で大岩魚と勝負しなければなりません。そんなときは多少強引に浮かせる力のある竿が強い味方となってくれます。
こんな大場所では短い竿では歯が立たない

長さは源流ならば短めの5.3mと言いたいところですが、これだと大場所では役に立ちません。大物は大場所に潜んでいることが多いのです。そうなると6.1mの竿は必要です。もちろん5.3mの竿も持っていきましょう。この2本があれば大丈夫です。



●仕掛けやエサ等

私は源流でも通し仕掛けです。道糸とハリスを分けると結び目が出来てしまい、どうしても弱くなってしまいます。通し仕掛けだと根がかりしたときに仕掛けを全て取り替えなくてはならないと思われがちですが、根がかりしたら糸を持って引っ張れば、ハリの結び目から切れますのでハリだけを結び直せばよいのです。ハリの結び方は簡単な漁師結びで結んでいます。これは慣れれば直ぐに結べて丈夫な結び方です。
仕掛けの長さは渓に合わせて2m程から6m位までとしています。また糸の太さは1号から2号です。随分太いと思われるかもしれませんが、めったに人の来ない源流では糸の太さは太くても関係ありません。岩魚がいさえすれば必ず食いついてきます。

オモリはガン玉のBから6Bまでを使っています。源流の岩魚にはナチュラルドリフトなどというものは必要ありません。デカいオモリでの豪快な釣りが似合います。

もちろんハリも尺岩魚9号から10号等のデカいハリを使っています。

さて、エサですが、私はもっぱら天然ミミズです。源流の岩魚ならば釣り具屋で一般的に売っているキヂ(ミミズ)でもなんでもよいのですが、大物を狙うには天然ミミズは絶対です。ですが、天然ミミズは一般的に手に入りにくいものです。私たちは雑木林の落ち葉の下から採ってきています。これを大きめの箱に落ち葉と一緒にいれて涼しい所に置いておき、現場に着いてからエサ箱に移して使います。

天然ミミズが手に入らなかったら次に来るのは昆虫類です。バッタやトンボなど現地調達できるエサは沢山あります。それと同じ位効果的なのはオニチョロという大きなカワムシです。ただ、これはどこにでもいる訳ではないので、調達が難しいと思います。

そして、これら仕掛けを入れておくのに、私は釣りベストではなくてベルトに付けるポーチを使っています。別に釣りベストでも良いのですが、ポケットが沢山あると、ついつい不要な物まで持っていってしまい重くなってしまうからです。それと深場の渡渉で濡れてしまうと、私の持っている安いベストだとビショビショになってしまい気持ち悪いからというのもあります。
ポーチは完全防水ではないので、濡れると困る物はビニール袋に入れておきます。特に糸は濡れると強度が低下します。一度濡らしてしまった糸は使わないほうがよいでしょう。

●たも網

これは無くても構いませんが、大岩魚が掛かったときには絶対必要です。前にも書きましたが、一歩も動けない場所で上には木が被さっている所もあります。そんなところで取り込みの時に、たも網が無くてバラしたら泣くに泣けません。
持っていくなら枠が畳めてコンパクトになるタイプのがよいでしょう。




●ビク

私たちは源流にビクは持ち込みません。腰にビクを付けているとヘツリや高巻きの時に引っかかって邪魔だからです。源流ではその日に食べる分くらいしかキープしませんので、ビクは邪魔になるだけです。
では、何を使うかというと私たちが「タマネギ袋」と呼んでいる、網状の袋です。これは釣具屋で売っている100円位のもので、軽くて畳めば嵩張らず、大岩魚でも入れることができます。その他にも山菜やキノコを入れたり、ゴミ袋や虫除けネットとしても使えるので、ひとつ持っていれば大変便利です。




◇安全な遡行の為の装備

ここにあげるものは必ずしも必要な物ではありません。しかし、いざというときに持っていると心強い装備です。

この沢を下降すれば、大岩魚が遊弋する渓だ

●ザイル

ザイルの太さにはいろいろありますが、8mm程度のもので充分です。長さは30mあればよいでしょう。ただし、不要と判断できるときは装備から外してもOKです。そのかわりに5mm程度のザイル(細引)を10m位持って行きます。これだとたいして重くないので、持っていて損はありません。ちょっとした下降でも使えますし、流れの強い場所での渡渉にも使えます。

●シュリンゲ

シュリンゲは5mm程のザイルを1m程に切って輪にしたものです。懸垂下降時に支点に巻き付けて「捨て縄」としたり、ハーネスが無いときに代わりに使ったりします。

●カラビナ

これは腰に巻いた下降用ベルトに通してエイトカンと併用したり、自己確保時にザイルを付けたりする場合に使います。
カラビナには環付とそうでない物がありますが、懸垂下降時にエイトカンと併用したりするときは、環付のカラビナを使ったほうが安全です。
カラビナは環付のをひとつと、そうでないのをひとつ持っていればよいでしょう。

●エイトカン

懸垂下降に使用するものです。これにザイルを通して下降するのですが、適度にフリクションが効きますので、左手でザイルを握っていればザイルに体重を掛けても落下しません。各自一つ持つのが理想ですが、同行者の誰かが持っていれば使いまわしもできます。

●下降用ベルト

懸垂下降時に腰に巻くベルトで、カラビナを通す輪が付いています。レッグループの付いた本格的なハーネスもありますが、完全な空中懸垂(オーバーハングなどで足が完全に離れてしまった状態)にならなければこれで充分です。渓流釣りでは空中懸垂になるような所は殆ど無いと思います。
また、これが無くてもシュリンゲで代用することもできます。


◇その他の装備

●懐中電灯

これは必ず持っていってください。源流では何が起こるかわかりません。特に夜間に雨が降っていて増水が気になるとき、懐中電灯がなければ水量を監視することもできませんよね。
懐中電灯は手で持つタイプよりも、頭に付けられるタイプのものがよいでしょう。また、予備の電池も忘れずに。



●ガムテープ

「焚き火の起こし方」のところで述べますが、ガムテープは焚き火を起こすときに使います。また竿が折れたときに補修したり、怪我をしたときの包帯替わりとしても使えますので、多めに持っていくとよいでしょう。ただし、芯ごと持っていくのは重いので、必要な分を100円ライター等に巻きつけていくと便利です。
ご存知とは思いますが、ガムテープは紙の荷造りテープではなく、布の丈夫なタイプのことを言います。間違わないようにしてください。

●携帯灰皿

タバコを吸う方は必ず携帯灰皿を用意しましょう。タバコを吸った後、吸殻をポイッなんてことはしないようにしましょう。
タバコは防水ケースに入れておけば濡れません。



源流の魚止め滝に竿を出すときは、
とてもワクワクするものだ。そこには
きっと大岩魚が待っている。

山釣りに必要な装備について述べてきましたが、一番大切なのは不要な物を持っていかないことです。ほんとうに必要な物だけでもザックの重さは15kgにはなってしまいます。それを担いで渓を歩くのは、空身と違って想像以上に大変なことです。ザックはできる限り軽くすることが危険を回避することにもなります。また、同じ機能をもった装備ならば、強度的に不安がない程度で軽いものを選ぶようにしましょう。









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