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  栃木県 大蛇尾川
  2018/08/04〜05




  大串さん、福田、高野





Text & Photo   : 高野

栃木県那須塩原市を流れる大蛇尾川(おおさびがわ)は大佐飛山と鹿又岳に源を発し、那珂川へ合流して太平洋へと流れ下る川だ。
私がこの渓のことを知ったのは、23年前に山と渓谷社から発行された「渓流フィッシング」という雑誌の記事からだった。
この記事は全日本暇人協会会長の下田さんが書いたもので、瀬畑さんと二人で行った釣行記であった。

まず目次に大蛇尾川と書いてあるのを見て「おおへびおがわ」? なんて不思議な名前の渓だなと思ったのを覚えている。記事を読んで「おおさびがわ」と知って、再び驚いたのだ。
そして、その釣行記の内容には、もっと驚きとても興味を持った。
なんと大蛇尾川には天然繁殖しているニジマスがいるというのだ。
ニジマスは北米に生息する魚である。そのニジマスがなぜ栃木の渓で繁殖しているのというと、昭和の初期に水産試験場が大蛇尾川のイワナの生息域よりも上流にニジマスを試験放流した。その後も何度か放流を繰り返したことで、ニジマスが定着したということらしい。
忘れっぽい私だが、この大蛇尾川の記事はよほど印象に残ったのか、記憶から消えてしまうことはなかった。
いつかは天然ニジマスを釣ってみたいという願いを、頭の隅にずっと持ち続けていたのだ。

その8年後、川上さんに連れられて高橋さんと荻野さんとの4人で、大蛇尾川を訪れた。
しかし残念なことに私はニジマスを釣ることができなかった。
唯一、高橋さんの竿に美しいヒレピンのニジマスが掛かったのだった。
その後に訪れたときにもイワナだけ。
それがずっと心残りになっていた。

「今度こそ」 その思いを遂げようと3年ぶりに大蛇尾川にやってきた。
前回は愛車ヴォクシーで腹を擦りながらも林道終点近くまで行けたのだが、この3年でまた一段と道が荒れてしまった。
流れた水でえぐられた路面は、本格四駆でなければとても走れたものではなかった。
幸い今回は福ちゃんのジムニー。シムニーで走れない道じゃどんな自動車でも走れない。
安心して林道の車止めまで行くことができた。
水戸からくる大串さんとは車止めで待ち合わせ。真っ暗な林道を上がっていくと大串さんが待っていてくれた。
大蛇尾川は首都圏からも近く、また関東一の美渓と言われることもあって、沢登りや釣り人に人気の川。
案の定、だいぶ下のほうに軽乗用車が1台と、一番奥に四駆が一台止まっている。
「ありゃ〜、先行者有か・・・。釣りかな?」と私。
「どうでしょうね、沢登りかも」と大串さんが言う。
まあ、もうすでに前日に入渓しているようなので、仕方がない。
久しぶりの再会を祝って軽く宴会して、仮眠をとった。

夜が明けて準備を整えた我々は大蛇尾川の取水堤までの荒廃した作業道を行く。途中にある吊り橋が一本壊れて渡れなくなっていた。この前来たときは渡れたんだけど・・・。

一時間半ほどで取水堰堤に到着。取水堰堤に掛かる吊り橋からは美しいエメラルドグリーンのたまりが見える。ここはいつみても美しい色をしている。
そのエメラルドグリーンの流れを見ながら一休み。さあ、ここからは沢通しだ。
30分ほど歩くと左岸に良いテンバがある。そこまで行ってザックを下ろした。

タープを張り終えたらいよいよ釣りに出発。
しかし今回は2kmほど上流の西俣と東俣の合流点まで釣らずに歩くつもりだった。
釣り人の多い大蛇尾川、日帰り圏内の魚はスレていて難しいと考えたのだ。
二俣に着いたのは10時30分頃。テンバから1時間は掛かっている。
ここまで来る途中に駐車してあった2台の車の主たちとすれ違った。
一組はカップルらしき沢登り。そしてもう一組は3人の釣り人だ。
沢登りは西俣から詰め上がって東俣を降りてきたとのこと。釣り人は二俣にテンバを取ってそこから上流を釣ったと言っていた。
これからの釣りに影響があるかどうかわからないが、とにかくやってみるしかなかった。

取水堰堤までの作業道は荒れていて、注意が必要だ。
取水堰堤上のエメラルドグリーンの彩。
ザックを下ろし身軽になって二俣を目指す。

西俣は悪水で魚はいないか、いても少ないので我々は東俣に入渓。
早速竿を出していく。
しばらくはアタリも無かったが、30分ほどした辺りで福ちゃんがイワナを釣り上げた。
「イワナかぁ・・・。やっぱりもうニジマスはいないのかな。」
数十年前までは取水堰堤より上はニジマスだけだったようだが、誰かがイワナを放したらしい。
それが徐々に勢力を広げて、今ではニジマスを駆逐するほどになってきたと聞いた。
今回もまたニジマスの顔は拝めないのだろうか。

福ちゃんに続いてすぐに私の竿にもアタリが来た。
これもイワナだった。
まあガッカリすることではないのだが、なんとかニジマスを釣ってみたい。

我々は交互に竿を出しながら釣り上がる。
二俣までは比較的平坦だった流れは、次々と滝が出てきてダイナミックな渓相に変わる。
それとともにアタリも増えてきた。

やはりニジマスは幻かと思われた矢先、ついに福ちゃんがニジマスを掛けた。
夏の陽光に輝く虹色の魚体は、記憶通りの美しさだった。
体側には虹色の下にうっすらとパーマークが浮かび、ヒレはピンとした紛れもない天然魚。
気品のある魚体を何枚も写真に収める。

これでニジマスが伝説じゃないことがわかった。
気合を入れてポイントに仕掛けを流す。そしてついに私の竿にもニジマスがきた!
優し気な顔つきのその魚は、なかなかの引きで楽しませてくれた。
美しい魚体を手にした時の気持ちは、まるで20数年来憧れた女性にでも出会ったかのような感動だった。

そんな感動を味わっていると、今度は大串さんのロッドがひん曲がる。
慌てずゆっくりと引き寄せる大串さん。
釣り上げたのは今までの中で一番の大きさ。
大串さんも大喜びだ。

その後も数尾のイワナとニジマスを手にした3人。
やがて目の前に立派な滝が立ちふさがる。
30mの大滝、観念滝だ。
この滝は簡単には遡上できないだろう。
滝壺にはひょっとしたら大物が潜んでいるかもしれない。

そっと近づいて仕掛けを振り込む。
しかし、残念なことにアタリはない。
何度もやったが結局ここでは釣れなかった。
いかにもなポイント、きっと誰もが竿を出すだろうから仕方がない。

さて、ここらで時間切れとなり引き返すことにする。
テンバまで戻るのは少し時間がかかるが、段丘上の踏み跡を右岸、左岸とたどりながら、3人は足取りも軽くテンバへと急いだ。

大蛇尾川は最初に来た時と変わりなく、美しい流れで私たちを楽しませてくれた。
そして念願のニジマスも釣ることができた。
まれにみる美渓、大蛇尾川。
またいつか訪れよう。ニジマスとの再会を楽しみにして。

福ちゃんがフライを振る。
今日の1尾目は福ちゃん。
残念ながらイワナだった。

         清らかな水に棲む源流の王。

綺麗なイワナだ。

私にもイワナが来た。
滝壺を攻める福ちゃん。
エメラルドグリーンに輝く流れ。
次々と滝が現れる。
大串さんもフライで狙う。

ついに福ちゃんがニジマスを釣り上げた。
正真正銘、この渓で生まれ育った魚だ。

ついに私の竿にもニジマスが来てくれた。

美しい!!
大串さん、ヒット!
暴れる〜!!


























大物だよ、これ。


























やりましたね!
おめでとう!!




























30mの観念滝。

今夜のテンバ。
広いし平らで快適。


焚き火はいつも盛大に。
左から福ちゃん、私、大串さん。

帰り道から見えた稜線。
いつの日かまた・・・。


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