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  新潟県 三面川岩井又沢
  2017/07/15-17


  大串さん、鶴見、八木さん
  福田、高野





Text & Photo   : 高野、大串、八木

FaceBookで知り合った大串さんとは、毎年1回ほど釣りに行っている。
行先はもちろん源流だ。
今回はその大串さんの友人、鶴見さん。そして長い付き合いで静岡在住の八木さん。渓道楽から福ちゃんと私の5人パーティーでの釣行。

今年の釣行先は新潟県三面川水系の大渓流、岩井又沢。
沢といってもチョロ沢じゃない。下手な本流など足元にも及ばない大きな沢だ。
気になるのは天気。予報では曇り時々雨らしい。岩井又は雨が降ると水の出が早くてちょっと危ないんだよなぁ・・・。
でも大雨の予報じゃないから、大丈夫だろうと決行することになった。

「心配だから三面本流にザイルをフィックスしときましょうか?」
と大串さん。
岩井又に入るには三面川本流を渡渉しなくてはならない。

もしものことを考えて30mザイルを2本つないで、本流に渡しておくことにした。
いざとなったらこいつに命を預けて泳ぎ渡るしかない。
しかし、後にこれが皆の命綱となるとは、この時は誰も思いもしなかった。

岩井又沢に入るのは今回で4度目だが、うち2回は増水でF1辺りまでしか行けなかった。
今回は2泊なのでF2上にテン場って、F3の上まで釣り上がろうという計画だ。
F2上のテン場へ行くのは15年ぶりだ。
前回行ったときは尺オーバー連発で、上流では入れ食いで釣り人たちは狂喜乱舞。
私が渡渉してるときに仕掛けを引きずっていたら、イワナが釣れていたなんてレアな経験も!

しかし、あれからもう15年も経ってしまった。
その15年という年月は、予想していた行程を狂わせるに十分な時間だった。

我々以外に誰もいない奥三面ダムの車止めを出発し、三面本流を快調なペースで渡渉。
ここでザイルをフィックス。低く張ると増水で流れてきた流木で切られては困るので、水面より10m以上高い位置に張っておいた。

そこから岩井又沢のF1下の渡渉点までで暑さにやられる。
大汗をかきながら岩井又を渡渉して左岸の山へと登り、F1とF2を一気に巻く。
最初はそれなりに踏み跡もしっかりとあって問題なかったのだが、進むにつれて不明瞭になり、やがて完全に見失った。
風の通らない巻道は蒸し暑く全然ペースが上がらない。沢を横切るたびに歩けそうなところを探すのに時間がかかる。
途中何度もGPSで確認するも、全然進んでいない。

やっとF2まで来たのだが、ここから先がまた大変そうなのだ。
15年前に来たときはハッキリとした道だったのに、今では道を探すのに右往左往。
これだととても予定のテン場まで行けそうもない。もうここでいいやとF2下の猫の額ほどの河原にザックを下した。
大雨が降ったらすぐに水没しそうなので、背後の山にエスケープルートを用意して、ここに泊まることにする。
今のところは太陽が頭上に輝き、雨は降りそうもなかった。天気予報は良い方に外れてくれた。

三面川渡渉点に到着。
岩井又沢を遡行する。
古いブナの切り付けがあった。
いにしえから多くの人が入ってきた森には、あちこちに人の痕跡がある。

F1渡渉点から左岸の巻道を行く。
しかし、あまりの暑さと偵察のために、岩井又まで降りた八木さん。
急激に落ちこむ沢をフリーで登ってきた。

暑さに負けた我々は、予定より手前にテン場を切ることに。
しかし、そこには安全な台地などなく、大雨が降れば一発で水没するであろう河原しかなかった。

今日はF2を巻いて釣りに行くのはしんどいので、テン場周辺で竿を出してみる。

私はいつもの6.1mの餌竿に仕掛けをつけると、下流に向かった。
30mも下ると素晴らしいポイントがあったので、早速仕掛けを投入。
3Bのオモリを付けた仕掛けが沈んでいくと、すぐにアタリがあった。
合わせるとグングン引く。こりゃ一投目から尺物か! というくらいの引きだったが、残念ながら9寸ほどのイワナ。
その後に掛けた数尾も同じくらい元気がよく、引きをして楽しませてくれる。
岩井又のイワナはパワフルだった。

降りてきた八木ちゃんにブドウ虫をあげたら、あっという間にイワナをゲット!
テン場前でこれだけ釣れるのだから、明日の釣りは期待大だ。
福ちゃんも餌をくれというのでブドウ虫をつけてあげて竿を渡すと、一発で釣りあげた。
「ここは絶対釣れる予感があったんですよ!」と、とっても嬉しそう。

さてさて、とりあえず岩井又のイワナに挨拶できたので、ちょっと早いけど、「乾杯!!」
キープしたイワナで八木ちゃんが揚げワンタンを作ってくれる。
熱々のワンタンはとっても美味かった。

今夜は雨の心配もなさそうなので、ゆっくり宴会ができそうだ。
明日もこの好天が続くといいのだけど・・・。

テン場の目の前で八木さんがテンカラを振る。
福ちゃんはフライで。
エサ釣りの私に来た岩井又のイワナ。
引き締まった、いいスタイルをしている。
八木さんもエサ釣りでイワナをゲット!
私の竿にまた来た。
ここにはイワナが溜まっているようだ。
明日は爆釣か?!



























今日もエサ竿を借りて釣り上げ
大はしゃぎの福ちゃん。

真夏の渓のビールは激ウマ!!
八木さんが飲みながらイワナワンタンを作ってくれた!
ごちそうさま。美味かったです!!

鶴ちゃんも何やら作ってくれている。
この写真に写っているのが、後に出てくるテン場上の止水プールだ。
奥の岩壁に隠れた先に豪快なF2がある。

うどんとイワナ揚げワンタン!
美味かったなぁ。

昨夜はゆっくり宴会するつもりが、なんと全員が20時には就寝し、翌朝6時まで熟睡。
たっぷり眠って昨日の疲れも取れたのだが、残念ながら空はどんよりと曇って今にも降り出しそうな雰囲気だ。
太陽が輝き明るかった昨日の渓は、今日は打って変わって肌寒くひんやりとした空気に沈んでいた。

「さて、いきますか。」
もしものことを考えてザックをパッキングして、河原から一段高くなったところにデポ。
これで釣りをしているときに増水しても、荷物は大丈夫だろう。
まずは目の前のF2を大高巻き。数十メートル登ったところでトラバースして、F2の上流に下降した。
F2の上流は河岸段丘もありテン場になりそうな所が多い。
一段高くなっているから増水したときでも安心。ただし、水が引くまでは帰れないけど。

釣りの準備が整ったので、待望の岩井又での釣りがスタート。
大串さんが下降点の下流で尺一寸を釣り上げた。いきなりの尺上に皆の期待も高まる。
みんな嬉しそうにそれぞれの釣法で釣り上がった。
しかし、思ったほど釣れない。
一級のポイントばかりだし、釣り人が入った形跡もないのだが、どうしたのだろう。
8寸程度のイワナがポツポツとは釣れるのだが・・・。

三面の大支流、岩井又沢。その流れは強く渡渉も油断できない。
ときに腰までの流れを踏ん張って渡り、ときに淵を胸まで使って遡行した。

苦労して釣り上がるも、降ったり止んだりだった雨が昼前になって雨脚が強くなってきた。
これは止みそうもない。
短い協議の後、昼飯を食べて引き返そうということになった。

河原のテン場。
大雨が降ったらきっと水没する。

F2を大高巻き中のメンバー。
巻き終わって河原に下降。
みんな、準備はOKかい?

福ちゃんのフライラインが綺麗なループを描く。
さあ、釣っちゃってよ〜!

私も竿を出した。
鶴ちゃんもフライ。
早速、来たよ!
良い型だ。

八木さんはテンカラで。
見ての通り、下手な本流など敵わない水量だ。
水の洗礼を受けて、腹まで浸かって遡行する。

























八木さんの毛バリにも!


こいつも綺麗なイワナだ。

押しの強い流れを慎重に渡渉する福ちゃん。
大串さんもフライで攻める。



豪快な渓相に見惚れる。
雨が激しくなり、後ろ髪をひかれる思いで撤収。
F2の巻きでピース!
このときはまだ増水していなかった。

ゴウゴウと音を立てて落ちるF2。

午後3時頃にテン場に戻ってまったり。
この時は平水だったのでF2に竿を出してみたが、チビイワナが1尾釣れたのみ。
高台に上げたザックから荷物を広げたりしてると、また雨が激しくなってきた。
「荒川に行ったときにも土砂降りになって大慌てでテン場に戻ったたんだけど、あっという間に大増水。ヤバかったよ。」
「そうそう、一気に増えることあるよね〜!」
なんて話をしながら流れを見ていると、濁りが入って徐々に増水してきている。
ありゃ、ちょっと増えてきたよな・・・、なんて話をしていたら濁流になってきた。
「おいおい、これ以上増えるなよ。」
水位は上がってテン場の下まで水が来ている。
ふと見るとテン場の上流側にあった止水のプールに濁流が流れ込んできた!

「ヤバイ! 早く荷物上げろ!」
と大串さんが叫ぶ。

「早くしろ!!」

全員大慌てで手当たり次第にザックに詰めて、残りは高台に放り投げた。

「もうヤバイぞ! みんな上がれ! 早く上がれ!」

ほんとにギリギリだった。
テン場下まで増水してから、その間5分か10分か。
あっという間にテン場は水没。タープがまだ張ったままだ。
半ばあきらめたのだが、八木ちゃんと福ちゃんが果敢に流れに入って張り綱を切り回収してくれた。
タープを回収できたことは、ほんとに幸いだった。

後で大串さんに聞いたのだが、このとき上流から1m位の高さで水の壁が押し寄せてくるのが見えたそうだ。
まさに鉄砲水だ。
話には聞いたことがあったが、そんなの本当にあるんだ・・・。

避難した高台から流れを見下ろすとテン場だった河原はすでになく、真っ茶色の濁流がゴウゴウと音を立てて岩井又は荒れ狂っていた。
ホントに間一髪だった。

もし、もっとイワナが釣れていたら、まだ釣りを続けていただろう。
そうしたらテン場には戻れず、もっとまずいことになっていた。
私はいつもサブザックで釣りに行くときも、必ずライター、ヘッ電、非常食だけは持っていくことにしている。
渓の先輩たちから、テン場に戻れなくなった話を何回も聞いているからだ。
でも、大雨の降る中で雨除けのタープもなく、レインウエア程度の装備で夜を明かすのは、どんなに心細いことか。

また、踏み跡が明瞭でF2の上にあるテン場まで行けていたら、左岸にある杣道には戻れずに渓に閉じ込められていただろう。
この増水がいつまで続くのかわからないが、下山予定日に帰れない可能性は高い。

いずれにせよ、結果的にここで泊ったのは正解だった。
ここからなら踏み跡をたどって岩井又F1渡渉点までは戻れる。渡渉できるかどうかは水量次第だが、いざとなればザイル渡渉で行けるかもしれない。

今はとにかく、暗くなる前にタープを張って横になれるところを探さないと。
幸い、1時間ほど下流方向に歩いた辺りで、どうにか5人が横になれる場所が見つかった。

濁ってきちゃいましたね〜。
あらら、テン場上の止水プールまで、あんなになっちゃってるよ。

ヤバかった〜。
増水し始めてから、あっという間にこんなことに。
テン場だった河原など、どこにも見当たらない。
この真下がそうだったのだが・・・。

崖上になんとか横になれそうな場所を見つけ、タープを張る。
しかし、雨水が溜まってプールのような状態になるとは、この時はわからず。

相変わらず雨は降り続いている。
「こんな状況でも誰も腐らず弱音もはかないんて、よいチームですよね。」
と美味そうなカレーピラフを作りながら大串さんが言う。
確かに、言われてみればそうだ。
こんな状況でもけっこう楽しく宴会している5人。
この5人で岩井又に来られて良かったと、つくづく思う。

それぞれが調理しながら残りのアルコールも入って、みんないい感じに出来上がってきた。
そろそろいい時間だから、就寝タイム。
しばらくは眠れたのだが、激しい雨の音に目が覚める。
悪いことに寝ている斜面を雨水が流れ、薄っぺらのブルーシートを通して、水がしみだしてきた。
シュラフはびっしょりになって、気持ち悪くて眠れないまま夜明けを待つ。
大串さんが寝ていた場所が最悪で、斜度がきつくてズルズルとずり落ちて眠れないようだ。
相変わらず、渓からはゴウゴウとものすごい水音が聞こえている。

天気予報を聞くために鶴ちゃんのラジオをつけると、イヤホンからは石原裕次郎の渋い歌声が流れてくる。今日は裕次郎の命日らしい。
子供のころ、太陽にほえろ!が大好きだったなぁ。放送日の金曜夜8時が待ち遠しかった。
そういやあのころはビデオレコーダーなんか無かったから、見逃したらアウトだったっけ。
なんてことを考えてたら天気予報が始まった。
なになに、新潟県地方は・・・「雨、時々止むでしょう」だと! なんて予報だよ!!
時々降るんじゃなくて、時々止むなんて予報、初めて聞いたよ。ずっと止んでてくれよ、もう〜!


やがて空が明るくなってきた。本日の睡眠時間は2時間ほどだろうか。
でも、ようやく雨が小降りになってきて、やがて完全に止んだ。
「よっしゃ、これは帰れる・・・かもね。」

明るくなって崖上から流れをみると、昨日よりは減水している。
しかし、まだまだ水量も多く濁りもある。
こんなんで渡渉できるだろうか・・・。
ま、とにかく渡渉点まで行ってみようと、歩き出した。

岩井又の渡渉点には1時間もかからずに着いた。見た感じ、なんとか渡れそう。
まずは泳ぎの得意な大串さんがザイル渡渉を試みる。
意外とすんなり行けて一安心。
胸までの水深だったけど、流れが緩やかな場所だったので全員無事に渡れた。
あとは三面川本流だけだ。
ここからは踏み跡をたどる安全な行程。
雨、時々止むでしょうの天気予報だったが、どうやら外れたみたいだ。
原生林の中を歩いていくと、木漏れ日が差し込み青空と太陽が戻ってきた。

果たして三面本流の様子は・・・。
「結構増水してますね〜。」
「行きよりも1m以上は高いね。」
そう、来るときは膝程度の水深だったのが、今はとても背が立つとは思えない水深になっていた。
「でも、こらなら大丈夫ですよ。」
と大串さんが言う。
「まずは空身で行ってみます。」
ザックは後からザイルで渡すことにして、大串さんが一番手を行く。
手前が一番流れが速く水深があるが、対岸に行くにしたがって浅くなっていた。
その流れに勇敢に飛び込む。
ザイルを掴みながら鯉のぼりのように対岸にたどり着いた。
「全然、大丈夫ですよ! これならザック背負ったままでも平気で〜す。」
対岸から大串さんの声が響く。
じゃあ、うちらは背負ったまま行くか。
続いて福ちゃん。楽しそうに流れに乗って対岸に。
で、私・・・。
ドボンと行ったらザーっと流れて、えっちらおっちらザイルを手繰って、なんとか無事に渡り終えた。
八木さんも全然問題なし。
さて、最後の鶴見さん。最後はザイルを回収してくるから、難易度が高い。
今までは両岸で引っ張ってピンと張ってたから流されることはなかったが、ラストはこちら側でしか引っ張れない。
気合を入れて鶴見さんが飛び込んだ。
頭まで沈みながらも無事に渡り終えて、みんなとハイタッチ!

今回は会社を無断欠勤することも覚悟したが、どうやら明日は仕事に行けそうだ。

にしてもこの釣行、とても貴重な体験ができた。
まあ、そんなことが言えるのも、無事に戻れたのと頼りになる仲間たちがいたおかげである。
次こそは、岩井又沢でもっと満足のいく釣りをしたいものだ。
もちろん、そのときは同じメンバーでね。

翌朝、ようやく雨も上がり、日の光が差してきた。
岩井又沢を無事に渡渉し、三面本流へと向かう。

八木さんの渡渉。
対岸の斜め岩からまずはこの岩に登り、ここから飛ぶ。


背の立たない流れを、ザックの浮力とザイルに頼って渡りきる。
引っ張ってた鶴ちゃん、スリップダウン。
あぶねー(*_*;
落ちたら背が立たないよ・・・。

ザイルを回収しての渡渉。
鶴ちゃん、頑張れ!


うひょー、顔が出てないじゃん。
大丈夫か?

あと少し!
よっしゃー!
すごいぜ、鶴ちゃん。
喜びのハイタッチ。

登山道に出てホットする。
もう危険なところはない。


車止めで濡れた荷物を乾かす。
明日からはまた仕事が待っている。
不完全燃焼の岩井又だったから、絶対リベンジしましょう!!

八木さんの釣行記はこちら
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