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  栃木県 大蛇尾川
  2015/04/18-19


  荻野(渓声会)
  田中、福田、高野(渓道楽)





Text    : 荻野
Photo   : 高野

4月18〜19日 で県北の那須連山と高原山に挟まれた大佐飛山を源頭とする大蛇尾川に入った。
大佐飛山は登山道が無く県下でも「一番遠い山」と言われている。そんな山から生まれた一滴が作り出す川は有数の透明度を誇る。大蛇尾、小蛇尾の両川が合流し取水された中流部を東北自動車道から眺めると、無惨にも白い石が只々敷き詰められた水の無い川の光景が広がっている。

昨秋山形へ遠征して以来半年ぶりの渓泊まりもさることながら、今回一緒に行った渓道楽の高野さんとは実に10年ぶりの釣行となり、長いブランクに図らずもお互い驚き合った。

口を開けば「あの頃は、、、」と想い出話ばかりの二人を振り返り 我ながら歳をとったものだと苦笑が浮かぶ。思えば当時ぼくたちは「昔はよー、あそこはイワナがうじゃうじゃでよー!」なんて師匠たちの想い出話に踊らされてあちらこちらを彷徨い歩いたものだったが、今日ぼくたちの前にいる若者たちに向かって「昔は、、、」なんて師匠同様をやっているのだから何とも笑える話ではある。

今回は高野さんに率いられ渓道楽の若手二人が同行してくれた。福田くん(福ちゃん)と田中くん(ケンちゃん)両人共に30代と聞けばどうしても自分の歳を振り返って溜め息が漏れる。

遥か下から川音が聞こえて来る林道を軽々とした足取りで歩き始める。ぼくはと言えば石につまずき到底軽々とは見えないよれよれ歩きで最後尾から付いて行く。

「山の斜面にアカヤシオが見事に咲いている!!」とわざとらしく感動の声を上げる。可愛いカタクリが咲いていれば「わあ、カタクリじゃん!」と騒ぐ。みんなの気を引き付けて足を止めさせ間隔の開きを取り戻す姑息な技を繰り返しながら、何とか一緒に歩いて行く。

この林道を歩くのはこれで3度目になるが、落石が道のあちらこちらに転がっていて益々悪くなっている。そんな事を思いながら歩いていたら突然大きな崩壊地に出くわした。以前には無かった所だ。手前の斜面にフィックスロープが下げられていてここは高巻きを示唆していた。

余計なアルバイトは落石への不安もあり緊張の中で遠慮無く体力を奪っていった。その後の歩きが益々遅くなったのは言うまでもない。
こうして渓へのアプローチは年々悪場が増え続け、これからの若者は苦労に苦労を重ねて我々の昔話にもいよいよ箔が付いて行くことになるわけである。

見覚えのある階段が現れて取水堰堤が近づいて来た事を教えてくれた。一気に下り始めて川音がどんどん大きくなると、いよいよ取水堰堤を渡って入渓だ。

堰堤上の水溜まりは相変わらず見事な透明度でぼくらを感動させる。透明度が良すぎて魚が寄り付かないのかその影は全く見えない。

河原に降り立ったぼくたちはザックを下ろして一息入れることにした。若手二人が竿を出したいと言うので「遠慮無くどうぞ!」とその背を押す。

福田くんはフライ、田中くんはテンカラと二人とも毛鉤釣りだ。ちなみに高野さんもテンカラと言っていたので、ぼくは素直にエサ釣りの仕掛けで来ている。
当分若手に釣りはお任せしてぼくはテン場探しに専念することにする。高野さんは例によって撮影班といったところ。

ガレた林道を行く。
この辺りの山は脆く崩れやすい。
最初に入ったときに落石にあって、危うく死ぬところだったのを思い出す。


























不思議沢という不思議な名前。
何か由来があるのだろうか。

林道の痕跡がわずかに残る道を行く。
























土石流で斜めになった橋。
福ちゃんが途中まで行くも、断念。
良い子はマネをしないように・・・。

見覚えのある取水堰堤が見えた。
ここが大蛇尾の入渓点だ。


退屈な林道歩きが終わって、一息つく荻野さん。

美しいエメラルドグリーンの流れ。
この流れに魅せられた者は多い。
堰堤上に掛かる吊橋からの一枚。


さて、行きますか!
待ちに待った源流の旅が始まる。

ぼくと高野さんは相談した上で早目のテン場設営を決めていた。本音は二人とも早いところザックを下ろしたいからなのだが、そこはもっともらしく若手には「早目にテン場を切って空身で釣りに専念しよう!」と伝える。

釣り上がる福田くんに様子を聞くと全くアタリも無いと言う。田中くんにしても同じらしく交互に釣り上がる彼らを追い越してテン場探索に専念する。

左岸に適当な平地の高台と焚き火に適した河原がある場所をテン場に決めて、四人がかりで一夜の宿を作り上げる。晴れているのに冷たい風が吹き始めてぼくはタープの下から出たくは無かったのだが、渓道楽は仮にも釣りクラブの名前を持つ老舗らしく釣り支度を始めている。「ここで待ってるよ。」と言い出せない小心者のぼくも表面だけは笑顔を絶やさずに釣り支度を整えた。

テン場を決めるまでザックを背負って釣り上がる。
テンカラで攻めるケンちゃん。

福ちゃんはフライで。
ポイントに的確にフライを打ち込んで行く。

渓にも遅い春がやってきた。
膨らみはじめたアカヤシオのつぼみ。


出だしは同様に福田くんと田中くんが交互に毛鉤を飛ばす。ぼくと高野さんは後見人として彼らの釣りを余裕の眼差しで見ていた。
かなり苦労をしている様子の毛鉤釣りだったが、福田くんのフライに魚影が動いたと聞いて「居るならそのうち釣れるさ!」なんて励ましたりなんかして余裕のよっちゃんを決めていた。

とうとう田中くんのテンカラにイワナが出た。白点の大きな良型のアメマス系イワナだ。イワナ君は一躍時の人、いや時の魚となりカメラに囲まれる運命となった。

上流でロッドを振る福田くんにもイワナが出た様子で、ぼくと高野さんも我慢仕切れずに「そろそろ竿出しますか!」と釣り支度を始めた。
ぼくが竿に仕掛けを付けて目印をつけ始めた時に「荻野さんエサ分けてくれる?」と声がかかった。毛鉤釣りが苦戦している様子を見て高野さんはエサ釣りに切り替えた様だ。変わり身の速さと言ったら聞こえが悪いので、ここは状況判断が光るとしておく。エサ釣り独占でウハウハ状態の筈だったが まあ旧交の誼みで分けてあげよう。

仕掛けを結びエサを付けて川を振り返ると、福田くんがまた魚を掛けた様子で歓声を上げている。ぼくたちも一気に気持ちが高ぶる。

ところで毛鉤釣りの二人の釣りはかなり丁寧な様だ。通常エサ釣りが仕掛けを作っていたら出来上がるまでに米粒くらいに遠ざかってしまうものだが、彼らはまだぼくの竿が届く所で毛鉤を振っている。毛鉤のポイントはエサ釣りよりも広範囲だからテンポ良く行かないと一日で大して釣り上がれないだろうなと思う。

仕方ないのでぼくは河原を大きく迂回して彼らの釣りポイントをいくつか飛び越えた所から釣りを始めた。
かなり水が冷たいので魚は岩に張り付いているだろうと、エグレにエサを送り込むような釣りをする。流芯や瀬に出ていれば毛鉤がそいつらを餌食にしてくれるだろうから、エサはエサなりの攻め方で行く。

案の定ゴツゴツしたアタリがあり思わず顔がほころぶ。今シーズン最初の魚にご挨拶と合わせを入れたらスポッと抜けてしまった!もう一度同じエグレに落とすとやはり同じタイミングでアタリが来た。今度はゆっくりと時間をかけてエサを送り込んでから合わせ入れた。竿がブルブルと震える感覚が魚をとらえた事を教えてくれる。慎重に手元まで引きずり寄せると7寸程のイワナだった。次のポイントでも立て続けに8寸イワナを得て意気揚々。高野さんもぼくの目の前でイワナを上げて記念撮影。

食いの浅い魚を相手にエサだけが順調に消費されて行く。同じ魚に3度もエサを取られて高野さんに譲ったら釣れてやんの!まあ小さいから許す。
本物のエサでこれだけ苦労する釣りを毛鉤でやっている二人には頭が下がる。釣りが上手な若手で良かったね高野さん!

それからもしばらく釣り上りイワナの顔を見て来た一同ではあるが、徒渉の際に股まで水に浸かりジンジン痛い程に冷たい感覚が釣欲に完全圧勝して敢えなく納竿とした。

























今釣行のファーストヒットはケンちゃん。
綺麗なイワナだ。


























福ちゃんにも良型イワナがきた!
今回は水がとっても冷たくて、
毛鉤には厳しい条件だった。

私(高野)の竿にもイワナ!
今回もまたエサ竿を手にしてしまった(笑)

白い斑点の目立つアメマス系のイワナ。
以前はニジマスが幅を利かせていたのだが、
いつの頃からかイワナが増えた。

荻野さんとは10年ぶりの釣行だ。
お互い年とったね。
10年も経ったとは思えないんだけど・・・。


今回はエサ釣りに分があった。
テンポよく釣れてきて、飽きることがない。

春の日差しにキラキラと光輝く水面。

絶好のポイントに竿を出す荻野さん。
水深のあるところを沈めて流すと、必ずアタリが出る。
しかし、まだ咥え方が浅く、かなり待っても掛からなかった。
それでも食い気はあるようで、何度でも食いにくる。


岩に囲まれた渓。
それでも、二俣まではほとんどが開けていて、毛鉤は振りやすい。

水の冷たさは半端じゃない。
長く入っていると痛くなってくるほど。


あまりの水温の低さに納竿。
ちょっと早いけど、テン場で宴会だ。


テン場に戻ると全員で焚き火の支度を終えてまずは一杯。一口飲んでしまえば尻に根が生えるぼくはドッカリ座り込んだまま若手を相手に焚き火のお話なんかをしている。福田くん相手に風向きに対して薪を並べる向きや、平らに焚き火の薪を並べる意味などを話した記憶がある。

記憶とわざわざ書いたのもこれが結構怪しいからで、焚き火の宴もたけなわとなると何が何やらおぼろ気な記憶しか残っていない。
田中くんが豚汁を作ったのは覚えているが食べた記憶が無い。自分で冷し麻婆豆腐を作っていた記憶はあるが、これも食べた記憶が無い。

福田くんが酒をセーブしている様子にビールを薦めたり、田中くんと日本酒を飲んだりした記憶が微かにある。翌朝高野さんが言うには「荻野さん あっちの方ですっ転んでたよ。相当酔っ払ってたよね!」とのこと。着ている赤シャツの元主を思い起こさせる動きだったという。いやはや面目無い!

そんなドタバタの中で田中くんがまめまめしく立ち働いていたことが印象にある。渓道楽の仲間から貰ったという結婚祝いのビリー缶でウキウキと豚汁を作っていた。結婚祝いにビリー缶を貰うってのも我々の仲間内では有りな話なのかも知れないが、世間一般には通じないだろうなぁ。貰う方も貰う方だがあげる方も他に何か無かったんかい!

しかし飲み過ぎた。
どうやってシュラフに入ったのか?
メガネは?
ヘッ電は?
財布は?
貯金通帳は?
印鑑は!!
全く記憶が無い。近年こんなんばっか、、、。
























天気は快晴なのだが、風が冷たい。
ガンガン焚火を燃やさないと寒くてたまらん。

























今シーズンの初渓泊まり&初焚火。
これがないと楽しみ半減だよね。

こんな酔っ払いのおっさんも翌朝は一番に起床し焚き火を興し、傍らで焼酎なんかをすすったりしちゃうのは渓の魔術と言えるだろう。街なら確実に二日酔いの役立たずで終わるパターンである。
如何に真夏の渓であっても朝は冷える。ましてやここは残雪の渓なのだから寝覚めの冷えた空気に起き出す気力が萎える。パチッパチッと焚き火のはぜる音が出渋るシュラフのヌクヌク感から背を押し手を引いてくれる事を知っている。

朝日を浴びながら四人揃ってモーニングコーヒーの一時。焚き火には残り物の豚汁とご飯が置かれ、ぼくの前には蓋をした中ビリー缶がある。「何だろ?」と蓋を取れば美味しそうなクリームシチューが出来上がっている。酔っ払いのぼくが手掛けた物を高野さんが仕上げてくれたらしい。
みんなでご飯に掛けて食った。旨い!確かに旨いのだが これならルゥーはカレー粉の方が良かったかもと思ったのは、ぼくだけだろうか?

福田くんは本当に釣り好きな若者で、早くもフライロッド片手にお魚と遊びに行った。彼を待ちながらのテン場撤去。
釣りから戻った福田くんから鉤がかりしなかったが、ニジの顔を見たと報告があった。かつてはニジの渓だった片鱗を垣間見た気がする。

お世話になったテン場を後に退渓。朝イチから股まで水に浸かり徒渉を繰り返す。取水堰堤まで来た頃にはすっかりその冷たさにも慣れたのか、若手の二人が交互に水溜まりに飛び込んで泳ぎ出した。渓道楽の伝統である遊び心は着実に受け継がれている様だ。

取水堰堤の橋を渡り斜面を登り始める。足を止めて振り返りエメラルドグリーンの水溜まりを眺め下ろす。
高野さんと「じゃあまた!」と別れてから10年。会えば十年一日の様に過ごせる渓仲間だ。
しかしこと渓に関しては何気なく背を向けて、2度と再び訪ねる事の無い予感めいた寂しい気持ちが何時も心の片隅にある。この渓を再び訪れることがあるだろうか、、、。

そう思うとこの2日間の楽しかった時間を共に過ごせた幸せに「ありがとう」と言いたい渓道楽との釣行だった。

「荻野さん、次はお酒が足りなくなったりしないようにします!」と言った田中くんと真剣に釣りに取り組む福田くんとは絶対また会おうと決めた。何故ならこの二人がいれば酒と魚は約束された様なものだから。(笑)

お約束のテン場での一枚。
左から、荻野さん、高野、ケンちゃん、福ちゃん。



福ちゃん、寒中水泳中。
若者よ頑張れ!
オジサンは見てるだけにするよ。


ケンちゃん、嬉しそうだな。
ひょっとしてドM?。



傾いた橋をパスして、下界に帰る。
次に来る時も、この橋はあるかな。


車に到着〜!
次はどこに行こうか。

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