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 新潟県 某沢
  2007/09/30


  小野寺さん(モーちゃん)
  横倉、高野(渓道楽)





Text & Photo 高野

今年も渓流釣りのシーズンが終わってしまった。この趣味を始めて10年以上が経ったが、最初の頃に比べると禁漁というのが寂しく感じられなくなった。
別に渓流釣りに飽きたわけではなく、魚を釣るということだけに固執しなくなったからだろうか。
渓流釣りを始めた頃から数年は、魚を釣ることだけが楽しみだった。釣行もすべて日帰りだったし、釣り終わればそのまま帰宅するだけで終わっていた。
今は源流に行くようになって、釣り以外の楽しみが増えた。それは写真であったり、焚き火や山菜であったり、キノコであったり。釣り以外にも山渓で遊ぶことができるようになったから、禁漁になっても寂しくないのだと思う。
そうは言っても禁漁になってしまえば竿を出すことはできないのだから、やっぱり釣り好きとしては最後の足掻きがしたくなるのも事実である。

そんなわけで、黒部赤木沢の初テンカラでボウスをくらい不完全燃焼だった私は、最後の足掻きに出かけてきた。残念ながら9月の最終週の土曜日は仕事。日曜日の夜行日帰りしか道はなかった。
日帰りで源流気分が味わえて、1尾でも良型が釣れそうな所・・・。そうかんがえて少ないレパートリーの中から新潟のあの渓を思いついた。
数年前に一度だけ行ったことがあり、大物も狙える渓である。

このときはまだ月が見えていたのだが

さて、場所が決まったら一緒に行ってくれる仲間を探さなくてはならない。渓道楽と友人何人かに声を掛けて、私を入れて3人のメンバーが集まった。
渓道楽の横倉さんと釣友のモーちゃんである。横倉さんは今年春に足を骨折し、今シーズンを棒に振っていた。なのでぜひとも行きたかったらしい。モーちゃんは「あそこツアー」で今年久々に一緒に釣りをした仲間だ。
釣れる釣れないは別にして、今回も楽しい釣行になりそうだ。

そんな3人が車止めに着いたのは深夜の1時頃。あたりはシーンと静まり返り、山はかなり冷え込んでいた。おまけに天気予報は昼から雨とのこと。今年は毎度毎度雨ばかり。秋晴れの空の下で気持ちよく釣りをしたいという願いは、今回もかなえられそうになかった。

あまりの寒さに途中でエンジンをかけて熟睡モードに入っている間に、後から来た奴の車だけが残されていた。どこの誰だか知らないが酷いもんである。これじゃ何処に入られたのかも分かりゃしない。
憮然としながらも仕方なく杣道を行く。

本流に出て竿を出しながら目指す支流まで交代で釣りあがった。しかし、魚の出はすこぶる悪い。というか気配も感じられない。
水量も減水ぎみで、おまけに皆上流に上がってしまったのだろうか。
水辺にも釣り人の足跡も沢山残っている。昨日は土曜日で、ここも結構な賑わいだったらしい。

釣りがイマイチならと、ミズのムカゴを採り、良さそうなところがあれば写真を撮り、ゆっくりと釣りあがっていく。

渓は一見、平静を装っていた
黄色いヘルメットがトレードマークのモーちゃん
清らかな水が流れ落ちる
清楚なダイモンジソウの花が沢山咲いていた ようやく骨折も癒えて久々の渓を満喫する横倉さん

























 あいにくの曇り空で渓は陰鬱な表情
 しかし、これも渓の日常の一コマだ

支流の出合に着いたところで、このまま本流を釣りあがるか、それとも支流に入るかを話し合う。とりあえず本流を行くが、すぐに真新しい足跡を発見。じゃあ支流かと入ってみるも、こちらにも新しい足跡が。う〜ん、黙って行った奴はどちらに入ったのか。それとも両方に分かれて入ったのか。
大きな川じゃないし、このところのプレッシャーもあるだろうから、後追いしてもまず釣れないだろう。
しばしの協議の後、戻って別の支流に入ることにした。

この支流、車止めへと戻る道に当たるので、何人も竿をだしている可能性が高いのだが、まだ午前中であり、今日は誰も入ってないだろう。
支流に入ると同時に空から冷たいものがポツポツ落ちてきた。気のせいか天気予報は悪いほうが良く当たる。泣きっ面に蜂、踏んだり蹴ったりである。

水は太古の昔から流れ続ける
9月も終わりとなると水は刺すように冷たい
やがて渓は雪に閉ざされる

しかし、支流に入ってすぐのポイントに竿を入れたとたん、グンッというアタリがあった。
「よっしゃ、やっと来たぜ」と満面の笑みを浮かべながらアワセるが、すっぽ抜け。
「くそっ、まだ早かったか」
と再度投入。すると同じところで再び来た。
今度こそと少し長めに待って上げるも、またしても鉤掛かりしない。
どうやらお子ちゃまがウジャウジャらしい。

モーちゃんの竿にチビ岩魚が・・・

よく見ていると、居る居る。淵という淵に幼稚園児のようなチビイワナが群れている。
そいつらがエサの端っこを咥えて引っ張っているのだ。デカミミズに9号の鉤じゃ釣り上げるのは至難の業。
3人ともアタリはいくらでもあるのに、良型が全然来ない。いったいこいつらの親はどこに居るのだ?
モーちゃんが釣ったのは10cmにも満たないイワナ。こいつらはいつ生まれたのだろうか。卵から孵るのは晩秋から冬のはず。ならばこの夏でもうちょっと大きくなっていると思うのだが・・・。

私など一度、一寸イワナを釣り上げてしまい、よくもまあ鉤に掛かったものと感心するやら呆れるやら。
そんなチビたちの相手をしていたら、車止めに着いてしまった。
しかし、このままじゃ終われない。そのまま通り越して、さらに上流へと釣りあがる。雨は段々と本降りになってきて、水に浸かった下半身はずぶ濡れで寒くなってくる。ついこの前まで猛暑に苦しんでいたのに、季節は早足で秋になっていた。
通ラズを高巻いて籔コギしてまた濡れた。どうにか降りたところに3mくらいの滝が落ちていて、いい塩梅に釜が深くなっている。
いつもの源流ならば絶対に良型の釣れそうな釜だが、今日はそうじゃない。あまり期待しないでエサを投入すると、またしてもアタリが出た。今度のはグンッという引っ手繰るようなチビのアタリではない。慎重に送ってアワセたが、またしてもすっぽ抜け。
「んだよ、またチビなのか!」
と半ば怒りを露わにしながらも再度投入。そしてまたアタリ。
今度はしつこいくらいに送り込み、ガツンとアワセると重たい感触が。
慎重に寄せてモーちゃんにタモですくってもらった。

それは丸々として体高のある見事な本流岩魚だった。どうりで重たいわけだ。
思えば6月に福島で9寸を釣って以来、その後は全然釣れなかったもんなぁ。
今回のも9寸ほどではあったが、私としては尺物と同じくらいの嬉しさだ。

本流育ちの9寸岩魚

























 流れ落ちる二条の滝
 9寸は右の白泡の切れ目で来た
この後、横倉さんにも良型が

がしかし、ここでトラブル発生。2番、3番が固着してしまい、竿が畳めなくなってしまった。
細い番手が仕舞えないと巻きができない。この滝はなんとか行けたが、すぐまた上に滝があった。
こちらは巻きルートにたくさん木が生い茂っている。けっこう嫌らしそうな斜面で、竿を持ったままとはいかないだろう。
仲間に一旦竿を持ってもらい、どうにか登ることができたが、次にまたさらにやっかいな滝が出現。
滝滝滝の連続で、渓は一気に高度を上げ始めた。
この滝で横倉さんにも良型岩魚が来た! 今シーズンを骨折で棒に振った彼にとって、私以上に嬉しかったに違いない。

我々の読みが当たったのか、この渓には岩魚がさしているようだった。

しかし、雨はますます勢いを強め、容赦なく3人を濡らす。ミニゴルジュのようになった先に落ちている滝は直登はできそうもなく、また雨足が強くなって3人のやる気もなくなってきていた。
ちょうど昼時だったのだが、今日は寒いだろうとラーメンを昼飯に選んでしまっのは失敗だった。雨の中、ガスで湯を沸かしてというのも面倒で、ここで納竿とするのに誰も異議はなかった。

こうして2007年も幕を閉じたのだが、結局固着した竿は仕舞えず、力任せにやっていたら折れてしまった。まあこれでザックに仕舞えるので、まあいいか。
帰りは半ば廃道化した杣道まであがり、籔をかきわけ車にたどり着いたのである。

今年は雨に祟られ、魚もイマイチというシーズンだったが、息子と初めての渓泊まりもしたし、念願だった黒部の赤木沢にも行った。そこで初めての源頭詰め上がりも経験できた。そう思うととても充実したシーズンであった。
来年はどんな渓に行こうか。まだまだ行ったことの無い渓が沢山ある。今から来シーズンが楽しみだ。


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