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 新潟県
  2006/07/15〜16


  柿下さん(新潟岩魚保存会)
  平沢さん(フリー)
  斉田、高野
(渓道楽)







Text  & Photo  高野

 海の日がらみの3連休は毎年釣行の予定を入れるのだが、ここは梅雨が明けるかどうかの微妙な時期である。今年の海の日は第三月曜の17日で梅雨明けは間に合いそうも無かった。さらには台風崩れの雲も重なり、日本列島は大気の状態が不安定ときている。案の定、天気予報も3日間とも雨の予報。それも大雨とあって、当初の予定の泥又川は無理そうだ。泥又には山越えで入渓するつもりだったのだが、それにはまずは猿田川本流を渡渉しなければならない。増水すれば渡渉は不可能だろう。事前に話し合った結果、渡渉無しで入渓できる場所、それも山小屋があれば尚良いということになり、大石川の大熊小屋に変更した。
 大熊小屋は数々のエピソードがある場所である。故川上顧問と中尾さんが「妖怪カレー舐めジジイ」と出会ったのも大熊小屋だし、故川上顧問と群遊会の我妻さんとの最初の出会いも大熊小屋だったそうである。他には若い女性の幽霊を見たという話も・・・。
 そういった数々の逸話のある大熊小屋にいつかは行ってみたいと思っていた。しかし、今回の雨のせいで願いが叶うかどうか微妙なところである。

 ところで今回のメンバーだが、渓道楽からは斉田さんと私。それから釣り仲間の平沢さん。そして新潟岩魚保存会の柿下さんの4名である。柿下さんは新潟在住なので、その他のメンバーは斉田さん宅に集合して深夜の24時に出発した。
 ルートとしては外環道から関越道に入って新潟を目指すのだが、外環の料金所に「事故 川越ICまで通行止め」の案内が・・・。そんな案内を料金所で出されても、もう一般道へは戻れない。「もっと手前で出せよ!」と車内はブーイングの嵐である。しかたなく一区間だけ乗って国道に下り、17号、16号を経由して川越ICから関越道に乗り入れた。

 「雨の予報だけど、どうなのかな?」と私が言えば、
 「なんか意外と晴れそうな気がするんですよね」と斉田さん。
 実際、越後湯沢辺りまでは月が出ていたのだが・・・。

 連休を利用して遠征する釣り人全員の願いを打ち砕くように、途中降り出した雨は新潟市に近づくにつれて次第に激しくなってきた。それでもコンビニで食料を買出しして車は一路、大石ダムを目指す。
 車窓から見える川はどこも濁流となって荒れ狂っている。「うわっ、凄いことになってるよ」「これじゃ釣り出来そうも無いね」「小屋で宴会か?」と全員が半分諦めムード。
 大石ダムに到着すると山形ナンバーと二本松ナンバーの2台の1BOX車が止まっていて、山形ナンバーのほうは無人のようであった。トイレの前の軒下には2台の原付バイクが止めてあり、コンロなどもあって宴会の跡が見て取れる。どうやら二本松ナンバーのほうは人がいるようである。バイクもあるということは釣りだなと見当がついた。

大石ダム管理の建物 土砂降り・・・

目指す山は完全に雲の中だった
出発準備は整ったのだが

 しばらくすると1BOXから人が降りてきた。挨拶すると昨日の夕方に着いて車中で夜を明かしたらしい。大石の中俣まで日帰り釣行らしく、我々とはバッティングはなさそうである。
 しかし、相変わらず雨は降り続き、ときおり激しく打ち付けるような降りかたをし、さらには雷まで鳴りはじめた。大石ダムからは轟々と音を立てて泥水が放水されていて、地鳴りのような音が響いてくる。
 着替えを済ませて準備は万端なのだが、大雨の中を5時間も歩くことを考えると気が重く、誰も「じゃあ出発しようか」とは言い出さない。大熊小屋までは登山道で行けるのだが、途中何本かの支流を渡渉しなくてはならないようであり、その水量も気がかりだった。

 1時間以上は様子を見ていただろうか、二本松ナンバーの3人はバイクを積み込み、撤収を始めた。どうやら諦めて帰るようである。帰り道で竿を出せそうな川があったら釣りをすると言い残して、車は下っていった。
 「こりゃ、やめたほうがいいですかね」
 「この濁流じゃ行っても小屋で宴会でしょう」
 「明日、明後日も雨だし・・・」
 と全員の意見は一致し大熊小屋は中止となった。
渡る川全てがこのありさまだ

 そうなると今夜の宿を探さなくてはならない。雨のためバンガローのあるキャンプ場をカーナビで検索する。最近のカーナビは優秀で、キャンプ場を検索し、さらに「情報」ボタンにタッチすれば収容数や料金、バンガローの有無まで表示してくれる。
 「ほとんどどこでもバンガローくらいあるでしょう」という楽観的な考えは通用せず、表示されたほとんどのキャンプ場にバンガローは無かった。それでも数箇所は目星がついたので、とりあえず山から下りることにした。
 「じゃあ、行ってみますか」と、キャンプ場に行ってみたのだが、
 「すみません、道路が冠水したり、がけ崩れで孤立する可能性があるので、営業は中止してます」と断られてしまった。

 「他に連絡してみましょう」と電話を掛けるも呼び出し音が鳴るばかりだったり、満員だったり、営業してなかったり、中には警察署に掛かってしまうところも(笑)
 さて困った。もうナビでバンガロー有りというところは残ってない。
 「ナビに表示されないところもあるかもしれないから、コンビニでキャンプ場案内を立ち読みしましょう」と国道沿いのコンビニに入り、番号を打ち込みながら店の外で電話する。しかし、やっぱりダメだった。

 「どうしましょうかねぇ。安い民宿でもあればいいけど、民宿で自炊できるとこなんて無いですもんね」と4人は困り果ててしまった。
 「さっき呼び出し音が鳴ってるだけのところ、もう一度電話してみませんか」とダメモトで電話してみると繋がった!
 「もしもし、今晩泊まりたいんだけど、バンガローは空いてますか?」
 「空いてますよ。でも、トイレは外だし炊事場も外ですけど・・・」(それが普通なのでは??)
 「いいです、いいです。 じゃあこれから行きます」
 「あ、掃除しなくちゃならないんで、少し経ってからきてください」

 「諦めないで良かったねぇ。でもなんかあまりヤル気がなさそうな感じだけど(笑)」
 「まあ、泊まれるなら何でもいいよね」
 とホッとする4人。

 時間つぶしに温泉に行くことにし、車を走らせる。地元の柿下さんの提案で「出湯」にいくことにした。出湯は素朴な昔ながらの温泉で、料金は250円ととっても安い。露天と内湯は別の場所にあるので、両方入るのは無理で、私たちは露天に浸かることにした。
 風呂には誰もおらず貸切状態でノンビリと浸かることができて大満足。そのあとビールを買出しして、キャンプ場へと向かう。

 キャンプ場も今流行の小洒落たところではなくて昔ながらの静かなところで、失礼ながらあまり繁盛してなさそう。まあそのほうが私としては好みなので好都合である。

 バンガローに荷物を運び込み、ようやく一息入れることができた。中は6畳ほどの広さでゴザまで敷いてあって快適だった。
 「こりゃいいねぇ。快適だよ」
 「大熊小屋よりずっといいよ。何より電気が点くってのが助かるよね。」
 「ここは差し詰め小熊小屋だな」
 「いいね、小熊小屋!。じゃ、そこの川は大石川じゃなくて、小石川だね」
 さっきまでの不安な気持ちはどこへやら。雨露のしのげる立派な宿が見つかったものだから、皆、上機嫌だった。
小熊小屋にて
左から平沢さん、柿下さん、斉田さん

 外は相変わらずの雨だが、大石ダムに居たときに比べれば小降りになっている。
 「これなら止みそうですね。止んだらそこの川で釣りしますか?」
 「そうですね。ちょっと水が引けば爆釣かもよ」
 と取らぬ狸の皮算用の4人。

 やがて雨も上がったので、釣竿を引っ張り出しスニーカー履きで川まで行ってみた。
 写真を見てもらえれば分かるように護岸されていて、かなり人の手の入った渓である。大熊小屋のある大石川西俣と比べるべくも無い渓だが、こんな状況の中で釣りができるだけでも幸せである。

 渓はあきらかに増水してゴンゴンの流れだけれども、途中で見た川に比べれは濁りも少なく、流れの緩いところならば釣りになりそうであった。さっそく4人は上流下流に散らばって竿を出す。

小石川?に竿を出す柿下さん
大雨による増水でゴンゴンの流れだ

 私は目の前の対岸にあった弛みへとエサを投入。エサはこういうときに有利なドバである。一投目はアタリ無しだったが、2投目で目印が止まった。
 ゆっくりとテンションを掛けると「グググッ」という岩魚特有のアタリが! 少し送り込んでバシっとアワセると9寸ほどの岩魚が釣れた。
 「ヤッター、釣れたよぉ」と皆に声を掛けるが激しい流れの音にかき消されて聞こえないようだ。
 釣れた岩魚を水溜りに入れて写真を撮っていると、この岩魚なんか変。何かが足りないような気がする。何だろうと観察すると、なんと胸ビレが左右とも無いのだ。
 「何じゃ?奇形か? それにしても両方無いってのはなあ。それに根元から切られてるようにも見えるし・・・。もしかして掴み取り用に放流されたやつかも。ヒレを切って子供でも捕まえやすいようにしてるのかも」と思った。ちょっと可愛そうである。

ヒレはボロボロで明らかに放流物と分かる岩魚だ
何か変だ 何か足りない・・・
あ、胸ビレが無い!

 そうこうしてると下流から斉田さんがやってきた。
 「斉田さん、釣れましたか?」
 「ダメです。」
 「私はそこで出ましたよ。まだ居そうだからやってみてください。」
 と場所を譲り、タバコに火をつける。見ているとアタリが出ているようだ。でもハリ掛りしない。
 「結構待ってもダメですねぇ。岩魚が小さいのかな」と斉田さん。
斉田さんは渓道楽きっての大物釣り師である。今までに40オーバーの岩魚を何尾も釣っていて腕も確かなのだが、こことは相性が悪いのだろうか。

竿を出す斉田さん

 今度は上流から平沢さんがとぼとぼ歩いてきた。
 「どうです?」と声を掛けると、
 「竿折られました」
何ぃぃぃ!竿を折られた?
 「そんなにデカかったの?」
 「かなり大物でした。竿取り替えてきます」と小熊小屋に竿を取りに行った。
 そうこうしてるうちに再び土砂降りの雨となって、全員小熊小屋に逃げ帰った。柿下さんには私と同じくらいの9寸が出たが、これもまた胸ビレが切られていた。
小熊小屋

 「さ、釣りもしたし、宴会だぁ」と冷やしておいたビールをプシュッと開けて乾杯!
 釣りの後のビールは格別だ。ちなみに私は下戸だがコップ半分くらいいただいて、グビグビっと飲み干した。

 そのあとは今まで行った渓の話、柿下さんの末沢川で滑落して気を失っていたところを山菜採りの爺さんに助けられた話、川上さんとの思い出話等々、夜が更けるまで語り合った。
 そうそう、晩のメインはカレーだったが、小熊小屋には「妖怪カレー舐めジジイ」は現れず、10時過ぎには寝袋で熟睡した。


【16日】
 翌朝、ガサゴソという音で目が覚める。どうやら平沢さんと柿下さんは釣りに行くようである。平沢さんは昨日バラした大物を釣るべく張り切っているのだ。
 となりの斉田さんはと薄目を開けて見てみると、まだ寝ている。じゃあ私も寝るかと再び夢の中へ。

 1時間くらいして斉田さんも起きだし釣り支度を始めた。支度といっても釣り道具だけ持って行くだけなので気楽なものだ。私はカメラだけ持って後を追う。

 さっそく平沢さんに聞いてみた。
 「どうです、バラしたの釣れましたか?」
 「釣れた、釣れた。37cmですよ。自己記録更新ですよ」と平沢さん。
 「37!。デカいですねぇ。こんなところにいるんですねぇ。で、魚は?」
 「リリースしました」
 う〜ん、生簀にいれておいてくれれば写真撮れたのになぁ。残念である。

 見ていた柿下さんによると
 「平沢さんが駆け下りてきたから、あ、掛かったんだと分かりましたよ。」
 「掛けたのはいいけど取り込む場所が無くて。下流の浅瀬まで落とすしかないと思ってね」と平沢さん。
 寝てないで一緒に行ってれば現場を見られたのになぁ。もったいないことをしてしまった。

 斉田さんは泣き尺を釣ったそうで、これで全員に良型が釣れたので、めでたし、めでたし。だけど平沢さんだけ
37cm、ズルイ!(笑)

柿下さん
相変わらず山は厚い雲に包まれていた

 小屋にもどってホットケーキの朝食をとった後、荷物をパッキングして昨日できなかった焚火をした。しかし流木もないし、周りに落ちている木は湿っているのでたいしたのは出来なかった。

 焚火も不発に終わってしまい、もうやることが無い。雨が小降りになったら行こうと思っているのだが、全然止む気配も無い。そればかりかますます雨脚は強くなる一方だ。そうこうしてるうちに昼を過ぎてしまい、結局小熊小屋を後にしたのは1時を回っていたと思う。

 今回は雨と分かっていて来たのだから仕方が無いが、それにしてもここまで降るとは思っていなかった。大熊小屋にいけなかったのは残念だけど、小熊小屋には泊まれたし、釣りもできたのだから、まあまあだったかもしれない。みんなで「次回こそ」と誓い合って雨の中を家路へと急いだのである。

村杉温泉 薬師乃湯
村杉温泉街は昔ながらの味のあるものだった
薬師乃湯近くの「薬師清水」
大勢の人が汲みに来ていた
帰りの車窓から見えた遊園地

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