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 新潟県 信濃川水系
  2006/05/27


  中村、高野






Text & Photo 高野

 このところの天候不順や今冬の雪の多さから、延び延びになっていた源流解禁をようやく迎えることが出来た。週初めに風邪をひいてしまい、鼻水ズビズバなのを鼻炎用の薬で抑えて、深夜の関越道を走りぬける。
 岩魚が釣れるかどうかは運にも左右されるので仕方ないのだけど、もう一つの目的の山菜が心配であった。例年なら5月の黄金週間の前に入渓してちょうど良い時期なのに、今年はそれより1ヶ月も遅いとくれば、コゴミは呆けてしまって収穫できない気がする。岩魚よりもそちらが心配な私たちであった。

 車止めには幸い先行者は無く、夜明けまで仮眠を取る。シートを倒して寝ていると車が止まる気配に目が覚めた。軽自動車からは年配の夫婦らしき2人が降り立ち、すぐに山へと入っていた。格好からすると山菜採りらしく、一安心。
 夜も白々と明け始めたので、着替えを手早く済ませて歩き出す。久しぶりの歩きとあって、ちょっとした登りでも息があがって心臓バクバクである。全く情けないことだ。

 渓への降り口は結構急斜面で、あまり木も生えていない嫌らしいルート。そこで私はピンソールを装着して楽にトラバース。ナカナカはピンソールを車に置いてきてしまったので、念のため細引きを出し下降した。
 ピンソールにはほんとに何度も助けてもらっている。今では必需品であり、勝手知ったる渓であっても必ずザックに入れていくようになった。
遡行を始めてすぐに雪渓にブチ当たる
こんなことは今までなかったことだ

 1年ぶりの渓に降り立つと、流れは減水気味。新潟県地方は関東と違って雨が降っていないようであり、釣りは苦戦させられそうだ。

 そこから上流を見ると早速雪渓のお出迎え。この時期でこんな下流部に雪が残っているとは、今冬の雪は半端じゃなかったことがよく分かる。例年通りの時期に来ていたら雪渓の穴釣りになっていただろう。

 竿を出す前にぐるりと周りを見上げ、大きく息を吸い込む。少し肌寒いくらいだが、すがすがしい渓の大気が肺に満ちて、またここに戻ってきたことを実感する。ここは両岸の山を深く削ったV字谷だが、流れの落差はそれほどではなく、ほとんど竿を伸ばしたまま遡行できる。その分、大場所的なポイントは少ないのだが、10年ほど前に来たときは、小さなポイントからでも良型の岩魚がポンポンと釣れた。しかし、度重なる大水と釣り人の増加からか、ここ数年はあまり釣れなくなってしまった。であるが、渓の規模も手ごろなのと、山菜の豊富さ、そして夢よもう一度という釣り人の欲深さから、ついつい毎年訪れてしまうのである。 もちろん、理由はそれだけでなく、日帰りで源流気分を味わえて、豊かな原始林に包まれた山があるというのもある。
赤コゴミの群生
ここ以外では群生しているのを見たことが無い

 さて、竿を伸ばした2人は交互に釣りあがって行った。ここから杣道を利用できる退渓点までは、じっくり釣れば2〜3時間だろう。途中にはコゴミの草原もあるし、ウルイも沢山生えていて山菜にも事欠かない。

 水温はどうかと流れに手を入れると、沢山雪渓が残っているため皮膚が切れるような痛さである。山は新緑に萌えてはいるが、水がぬるむにはもうしばらく掛かりそうであった。そんな水温の低さと水量の少なさからか、まるっきりアタリは無い。1時間近く釣りあがっているのだが、魚が走る姿さえ見掛けていなかった。
 しかたなく岸沿いに目をやると、案の定呆けきったコゴミが目に入る。しかし、探せばまだまだ食べ頃のコゴミも採ることができた。

 最初の岩魚はナカナカに来た。前に出て釣っていた彼の竿に掛かったのは9寸近い良型である。釣り上げるまでを写真に収め、「どうしよっか? キープしようかな?」などと迷っているうちに岩魚は自分で鉤を外して足元にポトリ。うねうね体をくねらせて流れに戻ってしまった。それでも最近はそれほど魚に執着の無い2人、「ま、いっか」てな感じである。
 1尾釣れれば気合が入るというもので、それからしばらくは釣りに集中。しかし、アタリはあったものの鉤掛かりしなかったりで、またダレダレになってしまう。それでも山菜採りには余念がなく、コンビニのポリ袋はどんどん重くなっていった。

9寸近い良型!
ここの岩魚はとても美しい

 大きな雪渓を一つ越え二つ越えして行くと、なんとなく見覚えのあるような無いような景色が目に入る。「ん? もう退渓点か? まだ早すぎるよなぁ」と2人で悩む。小さな沢を上ってナカナカが確認してきてくれたところ、やはり退渓点だった。流れが大きく変わっていたので、すぐには気がつかなかったのだ。
 時刻はまだ8時前。いくらなんでも上がるのは早すぎる。いったん車に戻って本流にでも行くかとも思ったが、我々の腕前では本流ヤマメは手強すぎる。よってもうしばらく釣りあがることに決定し、ここで大休止。

 すっかり日が差した渓は気温も上がり、汗ばむほどになっていた。ジャケットを脱いで辺りを見渡すと、渓は初夏の装いで、新緑が目に染みるように鮮やかだ。数日前までは雨の予報だったが、良いほうに外れてくれて雲ひとつ無い真っ青な空が歓迎してくれている。こんなに素晴らしい天気に恵まれるのは滅多にないことで、天に感謝する。やはり当会きっての雨男さんが別の地方に行ってくれたのが効いているのだろう。


 再び釣り始めてすぐの事、右岸台地を見るとスゥーッと立っている見覚えのある木が目に入った。あれはもしかして、と近寄るとやはり山菜の王者タラの木だった。「ナカナカ! 来てみ、来てみ」と先行するナカナカを大声で呼び、タラの芽をポキリと折り採る。これでまた一つ天麩羅の材料が増えて嬉しい。
 それにしてももう何回も通っている場所なのに、タラの木には全く気がつかなかった。来年からは楽しみが一つ増えた。

どこまでも青い空、山全体が萌える新緑 すばらしき山釣り
呆けてしまっているが、全部コゴミだ!!














  初夏の日差しが煌く渓


 しかし山菜は採れたのだが、私はまだ岩魚を釣っていない。会の初釣行でもボウズだったから、なんとしても今日は釣りたかった。
 静寂を破ったのはそれからすぐのことだった。ナカナカに先行してもらってゆっくりじっくり釣っていると、落ち込みの流れが崖に当たっている深みから魚信が来た。食いは浅そうなので、糸を弛ませしばらく待ってアワセをくれ抜き上げる。。
 久しぶりに見る岩魚はことのほか美しかった。大きさは8寸ほどで、まだ少し痩せているだろうか? でも初物ということでありがたくキープさせてもらう。

今シーズンの初岩魚
鮮やかな橙色の点が光る その美しさは、まるで渓の宝石

 これで気が楽になった私は釣り2割、山菜5割、写真3割で渓を遡行する。山菜もコゴミ、赤コゴミ、ウルイ等々嬉しいほど採れ、いつしかザックはパンパンになっていた。
 いつもの退渓点から2時間くらい来ただろうか、ナカナカに追いつくと6寸ほどのチビイワナをリリースしているところだった。

落ち込みに竿を出すナカナカ
アタリはあるのだが・・・

 その後、何度かアタリはあったものの釣ることは出来ず、時計を見ると11時。ここからなら車まで2時間もあれば戻れるだろうから、いつものお店で昼飯を食べるにはちょうど良い時間だ。
 ここまでいくつ雪渓を越えてきただろうか。まだまだ釣っていたかったが、後ろ髪を引かれる思いで渓を後にした。

 最後に今日はもうひとつ珍しい体験をした。杣道から林道に出るところで草むらを歩いていると、私の足の上を何かが通ったのを感じ立ち止まった。足元を見ると茶色くて丸まっちぃ生き物が数メートル走ってじっとしていた。「ん?何だ? ネズミか」と思ったが、ネズミならばかなり大物。都会のドブネズミならともかく、山にあんなデカイのはいないだろう。目を凝らしてじっと見ると、なんと野うさぎの子供である。それも二羽いる(うわぎは一羽、二羽でいいんでしたよね?)一羽をナカナカが捕まえて抱き上げる。まあるい目がとってもかわいい。抱きかかえられてじっとしているのを写真に撮り、すぐに草むらに逃がしてやった。
 野うさぎは何度か目にしているが、すばしっこくてあっという間に見えなくなってしまうのがほとんどだった。この子うさぎは、まだ小さくて走れないのだろう。間近で野うさぎをみられてちょっと嬉しい帰り道だった。

         左:支流に掛かる滝                右:鮮やかな体色のモリアオガエル
こんな素晴らしい天気の下で釣りができるなんて、思ってもみなかった
かわいらしい野うさぎの子供
しかし、野生の命はこれから厳しい試練の中で生きていかねばならない
無事に大人になってほしいものだ

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