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埼玉県 荒川水系大洞川・荒沢谷

2003.08.02

瀬谷進一、中村敏之






Text & Photo :中村敏之

 平成15年8月2日の未明、私と瀬谷さんは国道140号線を荒川・二瀬ダムに向かってひた走っていた。瀬谷さんは例によって運転しながらお菓子をボリボリ食っている。
 きつい坂を登り、やたら狭いトンネルを抜けると二瀬ダムの堰堤に差し掛かる。真っ暗な二瀬ダムの堰堤と湖面、更にその周囲の狭い道路が何とも不気味な感じを醸し出している。真夜中に一人でここを通るのはかなり勇気がいることだろう。ちょっとゾクゾクしながら三峰観光道路から雲取林道(大洞林道)へと車を進める。

 大洞川最源流部に通ずる雲取林道は全面舗装ではあるが、かなり荒れた道路との印象を持った。それというのも、急斜面を無理に切り開いて林道を通したからだろうか、落石があちこちにみられ、落石がぶつかってガードレールが滅茶苦茶になっている所がかなりあるし、大量の落石で道が塞がってしまったところを車一台分の幅だけ石をどかした場所もある。そんな、いつ石が落ちてきて車にぶつかるか分からないような恐ろしげな山道なのだ。

 慎重に林道を走ってようやく車止めに到着した。すぐ横を今日の目的地である荒沢谷が流れている。
 今日はあまり気温が上がらないということは天気予報であらかじめ承知してはいたが、秩父の山の中は一段(どころか二段か三段)と冷える。軽装では外に居られない程だ。荒沢谷の流れの確認もそこそこに、そそくさと車に逃げ帰り軽く暖房を入れて仮眠をとる。

 1時間足らずで夜が明けた。さっそく着替えて入渓する。渓に降りると中はまだ日が差しておらずかなり暗い。その暗い渓の川幅一杯に透明な水が流れている。
 遡行を始めてみると川床の傾斜がキツイせいなのだろう荒沢橋の上から見るよりも水勢が強く意外と歩きにくかった。
 ガイド・ブックによれば荒沢谷は釣り人が多い渓と紹介されていたが、苔生した渓はそれほど場荒れした感じは無く、しばらく遡ってもゴミ等は見当たらず好印象を受ける。惜しむらくは杣人が残したものなのだろう、ワイヤロープがそこかしこに放置されていることだ。これと入渓点の砂防ダムが無ければ『手付かずの自然が残った美渓』なのに残念な点である。

滝が多く、ポイントは沢山ある 荒沢谷の支流 桂谷

 荒沢谷は落差の大きな渓なので好ポイントが次々と現れるが、やはり秩父の渓らしく魚影は薄くアタリはあまりない。
 荒沢谷の水は透明度がとても高く、そしてたいへん冷たい。つまり非常に綺麗な渓という事になるが、これは釣りをするには結構厳しいものがある。何故なら水温が低ければ魚の活性は下がってあまり餌を食わなくなってしまう。それに水の透明度が高ければ水中から陸の様子が丸見えになってしまい、不用意にポイントに近づいたりすれば釣り人の存在がすぐに岩魚にバレてしまう。おかげで私は透明度が高い水のところではロクに釣れた試しがないのだ。(釣れないのは私のアプローチが下手なせいなのだろうが…。)

岩を割り、まるで生き物のように流れ行く水。
水の透明度はとても高く、光の加減によっては蒼く見える
蒼き水の流れる荒沢谷


 滝が連続する薄暗い渓をえっちらおっちら遡ってゆくが、渓の傾斜が急なせいか体が重く遡行のペースが上がらない。おまけにこの渓は元々日当たりが悪いところに持ってきて今日は雲が厚いので渓に全く日が差し込まず、更に水温が低いため体が冷えて結構辛い。
 入渓してから2時間半ほどでついに寒さに耐えられなくなり大休止する。が、それがマズかった。一度休んでしまうと水の冷たさを我慢して遡行する気力も萎え、どちらからとも無く「もう帰ろうか…?」と云う事になってしまった。
 皮肉なもので帰ると決めたとたん、雲が切れ夏の太陽が顔を覗かせるようになった。少し心残りな気もするが、思い切って温泉と美味い物に心を切り替え、来る時より明るさを増した荒沢谷を後にしたのだった。

夏の光を受けて輝く山の木々。
この日、関東地方に梅雨明け宣言が出された。
夏の日差しに水面が煌く。
荒沢谷から戻ると、車止めは快晴だった。
可憐な雌鹿も姿を見せた。
この辺りには野生動物が多い。

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