HOMEBACK
新潟県信濃川水系

2003.04.25

中村、高野




Text   :高野 智
Photo  :中村敏之 高野智

毎年この時期が楽しみで待ち遠しくて仕方が無い。渓での楽しみの一つ山菜が旬だからだ。
渓流釣りを始めたころは山菜なんてフキノトウくらいしか知らなかったし、採って食べるなんてこともしなかった。だけど、瀬畑さんや川上さん、岩田会長らと釣りに行くようになり、山菜の美味しさが分かるようになった。それからはちょっとずつだが覚えて採っている。
山菜採りは今では渓流での楽しみの一つだ。

今年も新潟県の渓からコゴミの便りが届いた。岩魚はシーズン通して釣れるけど、山菜は春の一時期だけ。今を逃すと1年待たなければならない。今年も相棒ナカナカこと中村と2人で夜の関越を駆け抜けた。

去年は季節が狂ったかと思うほど桜が早く咲き渓も雪解けが早かったが、今年は例年通りのようなので、まだ車は奥まで入れないだろう。そんな予想で車止めに着くと、やはり除雪中で奥までは入れなかった。しかし、すでに1BOXの車が1台。窓ガラスが曇っているところを見ると中で寝ているのだろう。おそらく同じ渓に入るつもりだろうから、うちらは趣向を変えて別の支流に入ることにした。この水系には何年も通っているが、別の支流には足を踏み入れたことはなかった。ここは一つ探ってみるのも悪くないだろう。

関越を走っているときからフロントガラスにはポツポツと雨が当たっていた。本降りではないが今日はどうやら雨模様。雨の中の釣りはどうにも気が向かない。仕掛けを取り替えるのさえおっくうになる。だいいち楽しみの一つの写真が撮れない。いや、撮れなくはないのだけれど、機材を濡らすのはできればさけたい。
好きなときに好きなところで釣りができるのなら嬉しいのだけど、そうも言っていられない。

車のドアを開け外に出ると、早春の渓の空気が気持ちよかった。着替えを済ませ2人で歩き出す。林道を行くと春の使者フキノトウが出迎えてくれた。林道脇にはまだ雪も残っているが、桜はちょうど満開だ。桜と山菜と岩魚、そして萌えるような新緑。これ以上贅沢な季節があるだろうか。

やがて目指す渓の入り口が見えてきた。ナカナカは以前入ったことがあるらしいが、私は初めてである。山形の大渓流の支流と違って流れは細いが、それでも美しい緑、透き通った水の流れは勝るとも劣らない。

さて今日の目当ては「コゴミ」である。岩魚じゃないのかって? 岩魚じゃなくてコゴミなのだ。「コゴミ」とは通称であって、ほんとの名は「クサソテツ」という。地面から顔を出した直後はくるっと先が丸まっていて、綿の無いゼンマイのようである。だがゼンマイと違ってアクが全く無いので、前処理のアク抜きという面倒な処理がいらないのがありがたい。そして味のほうも癖が無くテンプラやお浸しにすると美味しいのだ。
果たしてこの支流にコゴミ畑はあるのだろうか。いつも入っている渓にはコゴミ畑と表現しても大げさではないほど、そこいらじゅうに生えている。もしこっちに無かったらいつもの渓に入るつもりで竿を片手に釣りあがった。

コゴミと渓流

この季節の釣りは忙しい。なぜって水の流ればかりじゃなく、土の上も見なければならないからだ。キョロキョロと落ち着かない視線で渓を歩くと、うっかり浮石に足を乗せて転んだりもする。でも美味しい山菜が顔を出しているのだから、足元ばかりを見ている訳にもいかないのである。
コゴミちゃんはあるかなとキョロキョロしながら遡行して行くと、あったあった。幸いこの渓にもコゴミは生えていた。ただ畑と言うほど多くは無いし、結構伸びているのが多い。そんな感じで行くとナカナカのタマネギ袋(私たちのビク代わりの袋)に何か入っている。
「お、なんだよ、いつの間に。どこで出たんよ?」
「そこの落ち込み」
彼は私が山菜探しに夢中になったいる間に7寸岩魚を釣り上げていた。「二兎を追うもの一兎をも得ず」かぁ。

雨が上がった
谷間に雲が流れてきた
冬の間に降った雪が溶け、流れに変わる
四季は果てしなく移ろい行く
ショウジョウバカマ

相棒が釣った岩魚を見て俄然張り切る私。水と土の気にする割合が5:5だったのを7:3くらいにしてエサを流す。がしかしアタリ無し。昂ぶった気持ちもショボショボと萎えていく。
すると前方に絶好のポイントが。ここは居るでしょとミミズをつけて第一投を振り込み流れにのせると、駆け上がりでツンツンと目印が動いた。透き通った流れの底に見えるのは5寸ほどの幼い岩魚。軽く合わせたが鉤には掛からなかった。リリースする手間が省けたぜと強がりを言い、次のポイントに竿を出す。
雨のほうはポツポツという感じで気になるほどではないのが幸いだ。

6時半くらいに二股に着いた。右俣はどうかと覗いてみると雪渓で埋まっている。ナカナカが「ここで二手に分かれようか」と言うのだが、どう見ても右俣はヤバそうだった。「右は埋まってるから無理じゃないの」と言ったのだが、「その雪渓の上はウジャウジャかもよ」と根拠の無い夢のようなことを言う。あまり乗り気じゃない素振りをしていたら、「こっちやるよ」と入渓してしまった。「じゃあ10時にここで」とナカナカを見送り、「ほんとに雪渓の上はウジャウジャだったらどうしようと」気持ちが揺れる。

雪渓は不気味な口を開ける 右俣は完璧に埋まっていた
春はまだ先のようだ
いくつ雪渓を越えただろうか・・・

その気持ちを吹っ切り、左股を詰めあがる。そこから直ぐのところで待望のアタリ。ちょっと待ってあわせると20cmほどの岩魚が掛かった。提灯仕掛けなのでささっと竿を縮めて取り込んだ。
1尾釣れれば気持ちも楽になるもの。今度は岩魚と山菜の比を3:7に切り替えた。
それまではコゴミも少なく、あっても開いているのが多かったのだが、渓が右に曲がるところのカーブの内側に沢山生えていた。ここにも畑があったのだ。朝飯のパンをかじり一服してからコゴミ採りに精を出す。ここには太くて良いコゴミが多いようだ。いつもの渓より良型かも。コンビニの袋はあっという間に膨れ上がる。
コゴミは一株から5〜8本ほどの芽を出す。採るときはそれを全部採ってしまってはいけない。来年、再来年のことを考えて、数本残してやる。そうすればまた楽しめるからだ。そうやって残しながら採っても十分な量が採れる。この渓はほんとに素晴らしいところだ。

渓のあちこちに春の息吹を感じる カタクリのツボミ 可憐な渓の妖精
この渓にはカタクリの群落がある

さて釣りのほうだが、その後もう1尾岩魚を追加した。5尾くらいは釣りたかったが、あまり贅沢を言ってもいけないだろう。私の腕ならこのくらいが適当なところだ。
約束の時間まではあと1時間くらい。ゆっくり下って30分ってところか。ウルイやダイモンジソウといった別の山菜でも見つけながら下るとしよう。

関東では散ってしまった桜が咲き誇っていた

 HOMEBACK