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新潟県の渓

2002.07.20〜21


荻野、田辺、篠原、中村







Text&Photo :中村 敏之

 今回の釣行は私にとって今年初の源流釣行になる。どうやら荻野さんも同じらしい。ナベちゃんは神戸に住んでいるくせに誰よりも多く東北に行っているし、篠原さんも既に数度に渡って渓泊まりの釣行を行っている。例年ならば私はこの時期1、2度は渓泊まりの釣行をしているのが常なのだが、今年はどうしても時間が取れなかったのである。しかも今シーズンは日帰りの釣りすらほとんどしておらず、実質的に初釣行のようなもの。それが10数kgの荷を背負っての源流釣行では体力的に非常に心配なのだ。
 そんな諸々の心配を抱えながらも、篠原さん&ナベちゃんと落ち合い、荻野さんを自宅から拾い上げた後に一路新潟の渓を目指す。

 目的の渓に通じる林道を進んで行くと、昨年訪れた時よりも多数の重機が入り林道の道幅が広げられ、大きな建物も建てられて一段と開発工事が進んでいるように見える(何の工事なのかは定かでないが…)。誠に残念であるが、この調子ではこの渓が終わるのもそう遠い先のことではないようである。

 車止めに到着し空を見上げると、厚い雲が垂れ込め今にも雨が落ちてきそうだし、寝不足で頭は重くフラフラするし、体力に多大な不安はあるし、なんだか釣れそうな気がしないしでだんだん気が乗らなくなってきた。とは言ってもここまで来て「やっぱ止めます。」と言う訳にもいかないので、腹をくくって重い荷を背負って踏み跡を歩き出す。すると思った通りすぐに雨が落ちてきた。しかし、この雨はいつのか間にか止んでしまった。ちょっと一安心である。

紫陽花が心を和ませる

 この踏み跡、最初は笹薮を漕いで行くのだが、やがて踏み跡は森の中へと入る。森の中にはアジサイが咲き、右手にはきれいな水の流れも見える。渓を訪れるまでは「渓の草木を愛で、瀬音を聞き、たっぷり森林浴をして、この一年で溜まった垢を落とすのだ。」などと考えていたのだが早くも息が切れ足取りは乱れ、と言った塩梅でとてもじゃないけれど”草木を愛でる”余裕などまったく無い。
 しばらくすると、踏み跡に枝が張り出すようになり歩きにくくなってくる。と、視界の外にあった枝に顔をはたかれた拍子にバランスを崩し、踏み跡から転げ落ちて崖下に落ちそうになってしまう。すんでのところで枝につかまり転落を防いだのだが、もう心臓バクバクもんである。
 少し先の安全な所でへたり込み後ろを振り返ると、篠原さんも同じ所で同じように踏み跡から転げ落ちている。とっても付き合いのいい篠原さんなのだ。でも危ないから、これは付き合ってくれなくてもよかったのだ。

 大汗をかきつつようやく踏み跡の終点に辿り着いた。ここからは川通しでテン場まで行くことになる。
 「さぁてここから釣りながらのんびり行きましょうか。じゃ、中村さんは今年釣っていないんだから一番竿をどうぞ。」とナベちゃんは早くも釣りモードに入っている。
 「この辺はそんなには釣れないだろうから、俺はもうちょっと行ってから竿を出すことににするよ。荻野さんと篠原さんは竿出します?」と聞くと、2人は荷物を降ろしてから釣りをしたいと云う事なので、暫くこのまま遡行を続けることにする。
 が、しかし水の中を少し歩いただけで、もう足が出なくなっていることに気が付いた。「ムムッ、これはまずい。テン場まではここから最低1時間はかかるもんな。やはり釣りながらゆっくり行かないととても体が持たないぞ。」と計算した私は「やっぱ釣りしま〜す。」と宣言し、そそくさと釣りの準備をする。それを見たナベちゃんも竿を出して準備を始める。

1000kmの旅を終え、清らかな流れに竿を出すナベちゃん ブナの森と美しい渓 ここで竿を振れる幸せ

 
 釣りの準備をした場所のすぐそばに小沢が入っており、出合いの奥にちょっとした小滝があってその下に小さいけれどもいかにもな釜があるのが見えた。そこを攻めることにして、まずは釜の一段下に餌を落とすといきなり「ゴンゴン!」と当りがあり、食べ頃サイズの岩魚が飛び出してきた。
 いきなり釣れて気を良くした私は「こりゃあの釜は尺だな。」とばかりに意気込んで、いかにもな釜に竿を出したがそこの岩魚はお留守だった、無念。
 ナベちゃんと私で好ポイントに竿を出しながら進んでいくのだが、あまり数も出ないし型もよろしくない。しかし飽きない程度には釣れるので、篠原さんも見ているだけでは我慢できなくなったらしい。遂に篠原さんも竿を手にして3人で釣りながら遡行する。

 いいかげん歩き疲れた頃にようやくテン場に到着した。まずは到着の宴を張り、お互いの苦労を労う。一息ついたところで渓のお昼の定番のソーメンを食し、いよいよ尺上岩魚を求めて上流へ向かう。

到着の小宴会 昼の定番 渓流そうめん


 好ポイントに竿を出しながら去年尺1寸の山女魚が釣れた場所を目指すのだが、やっぱりあまり数も出ないし型も良くない。しかも、どういう訳か釣れるのは山女魚が圧倒的に多くなってくる。釣果がパッとしないので4人で渋い顔をしながら遡行を続けているうちに核心部に辿り着いた。
 まずは荻野さんが竿を出すが魚は無視しているようだ。山女魚がライズしているのが見えるので、魚が居るのは間違い無しなのだが…。ナベちゃんも竿を出してみるが1度当りがあったきりで釣り上げるには至らなかった。
 結局、これと言った釣果を出せないまま核心部を抜け、平らな区間まで来てしまった。ナベちゃんは尺上を釣ろうと頑張っているが、満足な釣果が得られない上に疲労もピークに達してきたので、釣りはナベちゃんに任せ他の3人は河原で昼寝を決め込む。

好ポイントに竿を出す荻野さん 流れの音が子守唄


 1時間も寝ていただろうか、眠気も大分とれた頃ナベちゃんが戻ってきた。結果を聞くとやはり尺上は出ず泣き尺止まりだったとかで、しかも上に行けば行くほど山女魚ばかり釣れるようになったという。どうやらこの渓を訪れるのが遅すぎて大きな岩魚は上に昇ってしまったようだ。

 さて、今回の釣りはこれでお終い。あとは宴会をするのみである。疲れた体に鞭打ってテン場に戻り宴会の支度をする。薪を作り米を研いでいるうちに次々と料理が出来上がってくる。荻野さんのキノコ料理&クリーム・シチュー、篠原さん秘伝のタレに漬け込んだ鶏のから揚げetc…。これだから渓泊まりは一度やると止められない。食べきれないほどの料理と酒を腹いっぱいに詰め込んだ我々は、いつしか夢の国へと運ばれていったのであった。

デザートはメロン!


 タープを叩く激しい雨音で目を覚ました。篠原さんも既に起きて辺りの様子をうかがっている。周りを見てみると凄まじい雨がテン場に叩きつけられている。私も半身を起こし時間を確認すると午前3時過ぎだ。風も吹いているので雨が吹き込んでブルーシートの端の方は水浸しになり、ついでにシュラフにも飛沫がかかっている。慌てて乾いているところに避難して「これはいったいどうしたことか。」と暫し茫然としていると、ただならぬ気配を察したのか「なんだこりゃあ!」と叫びながらナベちゃんが飛び起きてきた。
 4人で「こりゃ参った。」と顔を見合わせていると、タープに溜まった雨の重みでタープが垂れ下がってきた。慌てて皆でタープを下から持ち上げ溜まった水を捨てるが、降りが激しすぎてアッと言う間にタープに雨が溜まるので、ずうっとタープを支えている羽目になってしまう。よい年をした大の男4人が、引きつった顔でタープを支えている様を傍から見たらさぞ滑稽に見えたことだろう。

 激しかった雨も小一時間も過ぎると徐々に雨足を弱め、空が白む頃には小降りになった。ホッとしてタープを支える手を休め、ヘッド・ランプで川面を確認するとテン場の前のせせらぎが力強い流れに変わってしまっている。
 「こりゃまずい、かなり増水しているよ。この水量だと帰るのはかなりキツイかも。」ナベちゃんは今日中に神戸に帰らなければならないので、朝一でテン場を撤収して引き上げ帰る予定だったのだが、この水量では川通しの遡行はちょっと無理っぽい。
 「停滞決定!帰るのは明日。さ、飲も飲も。」と当のナベちゃん。と言うより早く荻野さんは酒を引っ張り出して既に飲んでいる。それを見るや篠原さんも焼酎を出して飲み始めてしまう。

 いつの間にかみんな再び眠ってしまったらしい。目を覚ますと雨はほとんど上がって時々小雨がパラつく程度だ。水量も平水に戻りつつあり、出発する頃には遡行に問題が無い程度になりそうだ。
 一安心しながら目覚めの一服をしていると、河原へ荷物を取りに行っていた篠原さんが戻ってきて、
 「魚が居なくなっちゃったよ。みんな逃げちゃったみたい。」
と報告する。昨日釣った魚を今朝のおかず用にとワタを抜いて流れで冷やして保存しておいたのだが、この増水で昨日採ったウルイと共に全て流されてしまったらしい。源流まで釣りに来て魚も手に入ったというのに、一口も口に入らないとは今回の釣行はどうも歯車がどこか狂っているようだ。

帰路 ちょっと一休み さあ、もうちょっとでビールだ!


 朝寝をしたおかげで出発が少々遅れたものの、車止めには電車の発車時刻に余裕を持って間に合う時間に到着した。これならば温泉に入りビールを飲む時間が充分に取れる。ナベちゃんなどを見ていると「実はこれが源流釣行の最大の目的なのでは?」と思わせるほどいつも「ビール!ビール!さ飲むぞぉ。」等と騒いでいる。確かにその土地でしか味わえない美味い酒や料理を食すのも、その土地土地の温泉に入るのも釣り旅行の大きな楽しみの一つだ。
 温泉で渓の垢を落としサッパリした後、今釣行の土産話を肴に美味いビールを飲み、地元で採れた新鮮な食材を使った料理を味わう。

 釣りでは期待した釣果が得られなかったにも関わらず、美味い酒と料理のおかげで大満足して渓を後にし、私の初釣行を終えたのであった。


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