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新潟県 朝日連峰 三面川支流岩井又沢

2002.07.06〜08


川上さん、曽野部さん(根がかりクラブ)、小林さん、
大ちゃん、高野



Text :高野 智
Photo:大ちゃん、高野智

 ※ 写真が多いため前編、後編にわけてあります 
後編へ
 岩井又F1

 「ここが岩井又のF1だ。竿出していいぞ。」
 リーダーの川上さんから待ちに待ったその言葉が出た。ようやく辿り着いたF1は大きな釜を従えて、我々の前に立ちはだかっていた。

 ここは朝日連峰の険谷として名高い三面川支流の岩井又沢。そこに根がかり倶楽部代表であり、渓道楽顧問の川上さんをリーダーとして、同じく根がかり倶楽部の曽野部さん、川上さんの弟子の小林さん、インターネットで知り合った富山在住の大ちゃん、そして私の5名パーティーでやってきた。
 三面川と言えば渓流釣り、特に源流を遊びのフィールドとしている者にとっては憧れの渓だ。その憧れの渓で竿を出す夢がかなうなんて、なんて私は幸せ者なんだろう。

 F1を前に釣り支度を終えた我々は、思い思いの場所に竿を出す。釣り人ならば誰もが分かると思うが、この第一投に掛ける期待というのはとても大きなものなのだ。第一投で良型が出れば、その日のそれからの釣りは素晴らしいものになると想像できるし、ウグイでも釣れようものならガッカリきてしまう。もちろんこのF1にはウグイなどはいるわけがないが、これほどの渓のこれほどの釜をもった滝で何も釣れなかったなどということになると、釣欲も萎えてしまうというものだ。
 その大きな期待を鉤に付けての第一投がF1の釜に着水した。岩井又のF1は我々の期待にしっかりと答えてくれたようだ。ここでそれぞれが良型を上げることができた。曽野部さんなどは、早くも尺上を2本である。やはり朝日連峰の渓というのは、いつ来ても期待を裏切らない。


岩井又目指して登山道を歩く

良型が早速竿を絞る
左より、川上さん、曽野部さん、大ちゃん、小林さん
曽野部さんの竿にいきなり尺上岩魚が

 F1の巻きはかなり悪い感じであった。足元は土壁でフェルト底の靴ではグリップも効かず、小潅木を手がかりにして踏ん張りながら登らなければならない。ある程度登ってしまえば崖の上の台地に出られるのだが、数10mはズルズルの登りである。手がかりの潅木に全体重をかけているわけではないが、それが抜けたら重いザックを背負った状態ではどうにもならないだろう。どうにか登りきりブナの森に逃げ込んだ。心臓は早鐘のようにバクバクいっている。下りもまた同じような感じであったが、どうにか無事F1の上流に降り立った。
 その目の前にまたもや大場所がある。そこでも入食い状態。一通り探り終わった後、今まで見ていた川上さんが、小林さんの竿を横取りして釣りはじめた。川上さんが投げ込むやいなや、竿が大きくしなった。
 川上さんは慌てる様子もなく浅瀬にゆっくりと誘導する。釣れた岩魚は36cmの丸々太った美しいものだった。
 なんてこった、まだ釣り出して間もないというのに尺2寸があっさり釣れてしまうなんて。さすがというべきなのか、やはりというべきなのか、岩井又沢は素晴らしい渓だ。


36cmを釣り上げご満悦の川上さん


 そこからも大場所の連続である。その度に竿にブルブルという岩魚の引きが伝わってくる。釣っては離し、釣っては離ししてF2に到着。しかし、いかにも大物が潜んでいそうなF2では全く釣れなかったのが不思議である。F1は増水すれば岩魚は越えることができるが、F2は越えることができないので、事実上の遡上止めとなっているのに。しかし、そんなことでめげるような我々ではない。まだまだこの先にはポイントが星の数ほどあるのである。

 F2は左岸を巻いて越した。その後も何度も渡渉を繰り返し、何度も巻き、ヘツリながらも、F3目指して我々は進む。しかし、釣りながらのゆっくりしたペースとはいえ重いザックを担いでの歩きはとても負担がかかる。
 他の皆のように体力があるわけでもない私はかなりへばってきていた。正直言って昼飯を食べた後の遡行は「テン場はまだか、テン場はまだか」というような状態であった。やはりシーズン初っ端の渓が険谷岩井又沢では無理があったのだろうか。私の心の中に弱気な気持ちが生まれ、だんだんとそれが成長していったのである。

さすが岩井又 厳しい渓相が続く
F2の主は留守だった


 時間はそろそろ3時になろうとしていた。ヘロヘロになり一人遅れて大岩を巻いた所に皆が座っていた。「やった、テン場だぁ」
 釣りながらのゆっくりしたペースとはいえ、朝から9時間かかってようやくF3手前のテン場に辿り着いたのである。

F3手前にテン場を設けた
ブナに囲まれた安らぎの空間


 さあ、まずはおかずの岩魚を確保しなくてはならない。今まで釣った岩魚は全部リリースしてきたから手持ちはゼロ。他にも食材は沢山あるので岩魚が無くとも困らないが、やはり源流釣りの晩飯に岩魚無しは寂しすぎる。
 一人頭2尾釣って来いというリーダーのお達しである。今日のメインは岩魚のムニエル。食べごろのやつを釣り上げようと皆は上流下流に散らばっていった。

テン場前の流れに竿を出す


 今日は曇り空で残念ながら満天の星を見ることはできなかったが、焚き火を囲み食べきれないほどの料理を食べ、楽しい夜は更けていった。やっぱりテン場での宴会は素晴らしい。日頃のストレスから何から全部吹き飛ばしてくれる。

 夜中にタープを叩く雨音に目を覚ました。明日は雨かなと思いながらも、再び眠りに吸い込まれていった。

 F3

 渓での2日目の朝、最後まで寝ていたのは私であった。朝寝坊で有名な曽野部さんより眠っていたとは、余程疲れていたのだろうか。

 「今日は魚止めまで行くぞ」とリーダーは張り切っている。しかし、F3はいきなり泳ぎというではないか。朝イチから冷たい水に浸からなければならないのかぁ。嫌だなぁ。

途中のテラスまで行こうと頑張る小林さん

 川上さんによるとF3は右岸途中の水中にテラスがあるという。そこまで泳いで取り付いて、今度はテラスに立って流芯の向こう側に飛び込み対岸に取り付くらしい。流れは無いというが、実際に大ちゃんがやってみたところ押し戻されてしまう。小林さんがやっても無理であった。川上さんはというと泳がずに左岸の大岩に取り付こうと頑張っているが、手がかり一つ無いツルツルの岩ではどうしようもない。唯一2mくらいの高さにクラックが入っていて、それがずっと続いているのだが、そのクラックには手は届かず、しかもその狭い隙間では川上さんの体は入れそうも無かった(特に腹が)。そういう狭いところは細身の私の出番である。「俺だったらなんとか入り込めそうですね。」などと言ってしまったのが失敗だった。「よし、ショルダーしてやるから、取り付け。」と川上さんに言われてしまう。まあ取りあえずやってみるかと肩に足を乗せて伸び上がるも、クラックに入り込むために掴まる手がかりが無い。「川上さん、ダメだぁ。」と言ってもおろしてくれない。「なんとかしろ。」と言われてもスパイダーマンじゃないんだから。

ザイルに掴まり突破

 一気にクラックを足場にして立とうという考えは諦め、挟まっていた石に指先を掛け半身を押し込んだ。しかし、そこから立ち上がろうにも手がかりも足がかりも無いのだから、どうにもならないのは当然のこと。ちょっと上に行けば何かあるかと思い、這いつくばったまま前進した。しかし、やっぱり何も無い。クラックは斜め上に向かっていて、先に進めば高くなるのは道理である。気がつくと水面より随分高いところにきてしまった。下にはエメラルドグリーンの深い淵があり、落ちても怪我はしないのだが、濡れるのが嫌でこういうルートを選んだのであるから、落ちるのだけは絶対嫌だ。「ダメだぁ、動けないぃぃぃ。」という私の叫びに、「お〜い、落ちるぞ、みんな見てろよ。」という川上さん。ここでドボンすれば皆に格好のネタを提供できるのだが、そうはイカのキ○タマよ。っていつも思うんだけど、イカにキ○タマなんてあんのかよ。誰か見たんか! 見たやつ出て来い。そいつのことを問い詰めたい。小一時間問い詰めたい。あ、そんなことは今はどうでも良いことだった。今はこの状況をなんとか抜け出さねば。「くっそぉ、絶対落ちないぞ。」と歯を食いしばりなんとかホールドを探し、わずかな手がかりに力を込めて立ち上がることができた。「やったぜ」と心の中でガッツポーズ! なんとかヘツって滝の上に降りることができた。滝には巨大な流木が橋のように引っかかっていた。ザイルに石を結びつけたものを投げ縄よろしく放り投げ、引っかかったところを私が捕まえて、流木に結びつける。川上さんはというと水中をきわどくヘツってきたのだが、途中でドボン。また振り出しに戻っていった。
 だが、ザイルを張ってしまえばこっちのものだ。無事全員がF3を突破することができた。
(帰ってきてから群遊会さんのサイトを見ると、F3は左岸を小さく巻くと出ているではないか。あんな苦労する必要はなかったのかも。私たちに力を付けさせるための川上さん流スパルタ教育なのだということにしておこう。)

 力をあわせてどうにかF3を越えた我々は、ここぞというポイントに竿を出していった。今日は昼飯には岩魚寿司、晩飯には岩魚丼を予定しているため、最初から8寸以上、尺以下はキープしていく。皆の竿にはポンポンと岩魚が掛かり、今日も入食いである。
 流していた私の竿に重たい手ごたえが来た。これは尺ありそうだぞと計ってみると、29.5cm・・・、くっそ〜、泣き尺だ。「よし、尺無いから締めろ。」と川上さん。
 鼻がもう少し低かったら世界の歴史は変わっていただろうと言われたのはクレオパトラだが、あと5mm体長があったなら岩魚ちゃんも晩のおかずにならずにすんだものを。何と不運な岩魚ちゃんだろうか。岩魚ちゃんには可哀想だが、岩の角に打ち付けて締めさせてもらった。

泣き尺イワナ
雪代に磨かれた美しい姿

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