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新潟県 信濃川支流

2002.04.27


中村敏之(ナカナカ)、伊藤智博、高野智




Text :高野 智
Photo:中村 敏之、高野 智

 今年も早いもので、もう4月も終わり。この時期になってもまだ竿を出していないなんて今まで無かった。なんだか毎年渓に入るのが遅くなっている。だんだんと源流志向になってきたというのも理由なのだが・・・。

 ようやくその日が近づいてきたと思ったら、なんと風邪をひいてしまった。前日から体がだるくて、寒気もしてきた。恐る恐る体温計を見ると38.5度! なんてこったよ。よりもによって釣りに行く前に熱出なくてもいいだろうに。
 金曜日は代休だったのだが、夜もうなされて眠れなかった。こんな状態じゃ、とても渓歩きは無理だろうと、同行者のナカナカに電話を入れた。せっかくの約束だけれどどうにもならない。何度も寝て起きてを繰り返す。こんなひどい風邪はひさしぶり。気持ちも弱気になってしまう。

 午後になって女房が、「子供連れて実家に遊びに行ってくるね。熱あるんじゃ家で寝てなよ」 えぇぇ、GW前半一人で寝てろってか。子供たちのいなくなった家に一人でゴロゴロしてると、暇で暇で嫌になってきた。夕方になると熱も下がり元気が出てくると、釣りに行きたい気持ちがとても強くなってくる。
 こうなると明日一人で暇を持て余すのと、ちょっとだるくても釣りに行くのがいいかなんて天秤にかけている自分がいた。そして気がつくと上○屋に向かって車を走らせていた。ミミズとブドウ虫を買い込み、ナカナカに電話を入れる。
 「熱も下がったし、やっぱ行くわ」

 夜明け近くの車止めには他には誰もいなかった。去年同じ時期に来たときは、まだ雪が残っていて、車止めまで行けなかったのだが、今年は雪が消えるのが早くて、全然周囲の山にも雪がないではないか。そう言えば去年は崖の上からの落雪で危うく死にかけたなぁ。あんな思いはもうまっぴらだ。幸い今年はもう大丈夫そうだ。

 夜明け間近に支度を済ませ、3人で山に分け入る。今回はナカナカと伊藤君、私の3人。去年の秋に来たときと同じ面子だ。今年はいつものコースでの入渓ではなく、車止めのすぐ上から渓に降りてみようとザイルも用意してきたのだ。半年振りの渓への下降は体も硬くて、それほどの斜面でもなかったがザイルを使って慎重に下降。すぐに春の息吹に包まれた渓の流れに立っていた。

 今年は雪代も終わっているようで、平水より少しだけ水位があるかなという程度。ほとんど河原も無いところなので、雪代ゴウゴウじゃ遡行もままならないのだが、今回は楽勝だ。

一歩一歩渓へと近づいていく 渓全体が萌木色に染まる
一年でもっとも美しい時期
さっそくこごみがお出迎え

 早速仕掛けをつないだ3人は、交互に釣り上がっていった。だが、誰の竿にもアタリは来ない。渓についた足跡から見るに、どうも昨日誰か入った様子だ。あまり広い渓ではないのだから、これは今日は無理かもしれない。しばらくやってもアタリも無いので、もうすでに山菜モードに入ってしまった。あたりにはコゴミがラッパのように葉を広げていたが、それでも探せば食べごろの太いコゴミが沢山、ほとんど畑状態であった。それを愛用のタマネギ袋に詰めていると、あっという間に満杯に。もうイワナなんて釣れなくても十分満足してしまった。

釣れない・・・

 伊藤君に6寸くらいのイワナが来た。なぁんだ居るじゃん、と気を取り直し釣りに専念しはじめる3人だが、何度かアタリがあっただけであった。そうなると竿を出しているのもバカらしくなり、まだ8時前だというのに焚き火を始めてしまう。こんな早い時間から焚き火やるのなんてねぇ。
 半年振りの焚き火を囲んでおにぎりを頬張る。崖を見上げると渓は新緑に萌え春爛漫の輝き。渓の底にまでは陽の光もまだ届かないが、見上げる稜線にはブナの緑が太陽の光を浴びて、待ち焦がれた春を謳歌していた。
 私はこの季節が一番好きである。雪に閉ざされた山が春風とともにいっせいに芽吹き、骸骨のように幹と枝だけだったブナたちが、新緑の衣をまとう。斜面には茶色一色の枯れ草を押しのけ、新しい芽が顔を出す。そこは緑の絨毯に変わっていく。こんな営みが変わることなく毎年毎年繰り返されると思うと、生命の力強さに計り知れないものを感じるのだ。イワナもしかり、山菜もしかり。山の素晴らしい恵みを享受することのできる山釣りとは、なんて素晴らしく贅沢な遊びなのだろうか。

今年は春の訪れが早く、
こごみも開いているのが多かった
新緑の渓
流れ落ちていく水もさほど冷たくはない
春の穏やかな流れに、釣り人の心も癒されていく

 大休止を終え再び釣り始めたのだが、すぐに見覚えのあるブッツケに来てしまった。あれま、これは退渓地点でないの。ってことはあそこがコゴミ畑か。
 キープするほどのイワナも出なかったのだから、これは山菜採りしかないなと3人で夢中になってコゴミを採った。
 「山菜採りって楽しいですねぇ」と山菜デビューの伊藤君。ウルイ、コゴミ、ダイモンジソウをお土産に、いつもの踏み跡を辿り車へと戻る。戻る途中でも目線は足元や崖へ注がれ、山菜を目ざとく見つけながら帰った。

これは花なのだろうか ダイモンジソウ
葉はテンプラで食べると美味しい
陽が昇った渓は春というより、初夏の装い
食べ頃のウルイ
シャキシャキとした歯ごたえ
踏み跡から覗き込む流れ 遠くの峰にはまだ雪が残っていた


 さて、まだまだ上がるには早い時間である。じゃあ、本流をやってみるべぇと車を走らせる。本流は少し行くとデカイ堰堤にぶつかってしまい、そんなに長い距離は釣れないのだが、いつも入る支流よりも上がってくる魚は型も良いらしい。

 渓に降りて準備してると、上流で叫び声が。何事と目をやると、そこには良型をぶら下げたナカナカが居た。入っていきなり9寸かい。これはいいぞと私が同じところを流すとアタリが出た。残念ながらそいつは鉤がかりしなかったが、
しばらく行ったトロ場で待望の7寸イワナがきた。
 ナカナカが8寸イワナを追加して、最後の堰堤に竿を出す。だが、アタリを合わせられずに、そこでは1尾も出ないで終わってしまった。

やった出た9寸 昼近くなると雪代が入ってきた


遅咲きの桜が咲きほこっていた

 今回の満足度は70点といったところだろうか。イワナは少なかったけど、山菜が採れれば幸せである。山釣りの楽しみはイワナだけではないのだから。


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