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新潟県某沢

平成13年6月23日〜24日

川上顧問、渡辺大樹さん(根がかりクラブ)、荻野さん(渓声会)、岩田廣隆、田辺哲


 
Text:田辺 哲


 「なにもそんなに重い荷物持って山奥行かなくたってイワナなんて里川でも釣れるじゃないの。」
源流部に脚を踏み入れた頃、周囲の釣り仲間によく言われました。
不本意ながらボクは決して人より体力があるわけでもなし、遡行能力だって里川釣り師となんら変わることがありません。もっとも、幸せなことに根がかりクラブの川上顧問をはじめ、「渓の達人」と呼ばれる方達と一緒に渓に脚を運ぶ機会にも恵まれている身でありますが、源流釣りの世界は決して甘くは無く、「歩けない」「へつれない」「泳げない」ためにとっても情けなく、いつもつらい思いをしています。その度に「次回はもっとトレーニングして来よう。」と密かに心に誓って渓を後にするのですが、下界における経済最優先のストレス社会と自分自身の意志の弱さで毎晩のように居酒屋で呑んだくれ堕落した日常生活に・・・。

 今回の釣行は当初、岩田会長とインターネット渓流釣り軍団「渓声会」の荻野会長との「まったり遡行トリオ」での予定でしたが、直前になり川上顧問と根がかりクラブの若手ホープ渡辺大樹さんも同行いただけることになりました。
エキスパートのお二人がご一緒なら泳ぎとヘツリの連続のこの渓も楽勝だろうとお思いでしょうが「遡上を知らない養殖イワナ」のようなボクは、まだテン場は遥か彼方だというのに、ゼンマイ道でヘロヘロ状態になり音を上げる体たらく。おまけにずいぶん後から歩き始めたであろうボクの両親よりご高齢と思われる「わらじの仲間」のパーテイーの方達にも笑顔で追い越される始末。林道の崖崩れによる1時間の歩きがプラスされたこともあってテン場到着に3時間以上もかかってしまいました。
 それでもタープとブルーシートで設営して一息つくと、釣りへの情熱が湧いてきて川上顧問と渡辺さんは下流から、岩田会長、荻野さん、ボクはウジャウジャと思われる上流から攻めることになりました。

「君達3人の力で何とかしなさい!。」「渓道楽もそろそろ自立しないとダメだ!」と言葉には出さないけれども川上顧問の厳しい愛情?を感じたので、トップで泳いでルートを切り開くつもりでいたものの「遡上できない養殖イワナ」はあえなく流れに押し流されて、どうにも遡行ができません。両岸は切り立ったゴルジュがひたすら続くために高巻こうにも高巻けずに釣りをしたのは僅か数10mのみ。せっかく無理を言って忙しい中同行してくれた岩田会長と荻野さんに釣りらしい釣りをしていただけなかったのでありました。
 唯一の救いといえば苦労して降り立ったゴルジュの手前で岩田会長が尺オーバーの良型を釣り上げたことでした。せっかくここからが核心部だというのにどうにもならない歯がゆさを残してトボトボとテン場に戻ることに・・・。

キープした唯一のイワナ。
この先は楽園のはずなのだが・・・。
巻くに巻けずに悲しい撤退。
延々と続くゴルジュは「養殖イワナ」を
寄せ付けなかった。
(笑)

 一方、川上顧問と渡辺さんのエキスパートコンビはこんな悪場でも難なく遡行したようですが、肝心のイワナさんの方は赤ちゃんのみだったようです。
やはり、力強い天然イワナ達は水温の上昇とともにボクの能力では立ち入ることのできないゴルジュの核心部か、遥か上流部に遡上してしまったようでした。


 明けて2日目。最高齢の岩田会長は川上顧問の案内で一足先に下山してちょっとした沢に竿を出しにテン場を後にされました。
 昨日の情けない顛末にお気遣いいただいたのでしょう。エキスパートの渡辺さんはボクらのためにゴルジュ核心部ウジャウジャポイントへの下降場所を一生懸命探してくれたのですが、ボクの技術で降りられるような場所はなく、持参した、たった10mのロープでは全く歯が立ちませんでした。

 仕方なくゴルジュ核心部を過ぎた唯一ラクに下降できる場所からの入渓となったわけですが、ここから先も決して楽な遡行は許されず、泳ぎと微妙なヘツリを要求されたのでした。
 若くして名だたる険谷を制してきた百戦錬磨の渡辺さんの遡行能力にはただたた驚嘆するばかり・・・。ツルツルの壁でもまるで手足に吸盤でもつけているかのようにヘツり、流れの強い流心もあっという間に泳ぎきってしまうのです。
おまけにモデルをご職業としているだけあってスタイルも顔もバツグン!。天は二物も三物も与えてしまうのね〜。

2日目に降り立ったゴルジュの出口に竿を
入れると山の神のお恵み
が・・・。
たった1尾の良型でもいいんです。満足なんです。

 さて、肝心の釣りの方は相変わらず芳しくなくて、良型がほんの少しだけ顔を出してくれたもののウジャウジャの楽園はあえなく夢と消えたのでしたが、源流釣りは決してイワナを釣ることだけが目的ではないと、決して、決して負け惜しみではなく思うのです。
今回ボク達のお世話になったテン場は、それはそれはみごとなブナ林に囲まれて、雨が降れば雨傘に、厳しい日照りの時は日傘になってくれ、地面には何重にも積み重なった落ち葉の「ふかふかベット。」
まるで優しい母親の懐にいるような気持ちにさせてくれるのでした。そんな森の優しさに包まれていると都会生活ですっかり汚れきってしまった心が洗われて、ほんの一時ではあるかもしれませんが、純真無垢な子供に生まれ変わったような気がするのです。だから来年もまたきっとこの地を訪れようと思います。そしていつかは「養殖イワナ」から「天然イワナ」に生まれ変わりたいと思うのでした。


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