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渓流解禁日を迎えて

埼玉県荒川支流入川
東京都多摩川
2001年3月3日〜4日


Text&Photo:川久保秀幸
 

今年も渓流解禁日を元気に迎えることが出来たことを神に感謝する。長い「冬籠もり」の末の解禁だから、渓流マンなら元気にならない方がおかしい。私にとって、解禁日を迎える時ほど体中にアドレナリンを分泌させる「事始め」はない。それで、秩父の「入川」と「多摩川本流」を二日間かけて「はしご釣り」を楽しもうと決めた。なぜ「入川」かというと、昨年の解禁で一人で60尾近く釣った奴が何人もいたという情報の真偽を確かめるため(単に自分も、というさもじい心づもりではないので念のため)、そして、多摩川は例年出掛けるお決まりの川だからです。ここから始めないと解禁気分になれないのです。

金曜日の真夜中に自宅を出発して、「入川」を目指したが、大滝温泉のところで「ガス」が心細いほど残り少なくなってきた。そのまま無理して目的地まで行けないことはないが、帰りに誰もいない山中で立ち往生になったら、去年の「高速道でのガス欠」みたいに「しゃれ」にもならないので、やむなく、スタンドのそばで明朝の営業を待って、車中泊。周りは前日の名残で雪が積もっていた。車中は「冷蔵庫」並に寒かったが、防寒対策をしっかりして熟睡した。

早朝やっとガソリンを補給して目的地に着いたのは、7時半でした。「朝まずめ」の絶好時間を逃して残念だが、「初期」だから大した違いはないだろうと自らを慰めて、ワクワクしながら渓流へ。ところが雪が厚く積もって下にある「岩」とか「大石」の形状が分からないので、慎重に踏みしめてからでないと、前に進めない。朝のうちは表面がまだ固いから、おそるおそるという感じで足を運べばはまることなく乗って歩くことが出来たが、お日様が上がるにつれて柔らかくなり、油断すると雪庇を踏み外して腰までスポッと埋まってしまう。おまけにしぶきを受けて氷が張っている岩場がところどころにあって、これ以上の遡行は危険と判断し、昼過ぎに納竿。釣果はというと、水温が大部低かったので「アタリ」があまり無かったが、それでも2尾のヤマメをキープ出来て一安心。初期の「入川」はいい「ポイント」に出会ったならパカパカ釣れる渓流だと思う。結果論だが、そのあたりの渓を知悉していない釣りというのは、こんな釣果でまあまあというところか。

渓は雪に埋もれていた
生き物たちはじっと春を待っている
まだまだ冬を纏う入川


翌日の目的地は東京都下の「多摩川」です。都下と言っても奥多摩という山ん中にある「本流」です。少々汚い川になっているが、毎年の「渓流解禁日」には10万尾ものの「ヤマメ」「イワナ」「マス」が放流されている。放流規模は関東圏では最大で、だから「お祭り」として各地から腕自慢の釣り人が大勢集まることで知られる川です。

それで、武甲温泉でゆっくりサウナや湯船に漬かってから飯能を経由して青梅を目指し、夜の9時ごろになって多摩川のほとりにある公園に到着。ここで二晩連続の車中泊。私は日頃から「夜更かし」をするので慢性的な睡眠不足なのだが、この時だけは早寝早起きのせいで、体調はすこぶるよい。パソコンも無し、テレビも無し、新聞も読まない(釣りに行くときは何も持っていかないのが常)では、寝る他にすることもないから、どうしたって健康的な生活になってしまうわな。

夜のレストランで見たテレビの天気予報では「大荒れの天気」とあったのでやばいかなと思ったが、起きてみたら、雨も降っておらず上々の天気ではないですか。たまには、はずれる事もあるのだなとほくそ笑んだが、しばらくたつと、まずい!ボツリボツリと雨が降り出し、8時頃から本格的に降り出して来た。増水の危険もあるので放流が行われるのか心配になってきたが、9時前にはちゃんと放流されたのを見て、それなら大丈夫だなと安心した。

正午の「ドン」がなるまでひたすら待機しなければならない。正午の合図がなってからが「解禁」なのです。これは、奥多摩地域だけのやり方のようです。待っている間は冷たい雨にうたれるので、いくら防寒対策をしていても寒いことは寒い。こまめに体を動かしたり、熱いラーメンをコンロで作って食べたり、またどこかで雨宿りをしてしのいだが、こんな時は早く始まってくれないかなと切実に思う。そのせいか、釣り人の数が例年に比べ半分ほど少ないようだ。それも結構、釣る人も釣られる魚も、それだけプレッシャーが少なくなってよろしいようだ。

やっとの思いの合図で竿を降り出したが、冷たい雨の中、近くに立っている釣り人の糸と「お祭り」にならないように神経を使うし、頭に被ったフードが邪魔で糸が思うような所に流せない。ボツボツ釣れだしてはいたが、調子はいまいちでした。

2時ちょっとで雨がやみ晴れ間が覗いたときに、私の竿がツツツーッと当たりが出たので、いつものように竿を軽く引いたら、糸がグッという重い反応を返してきたので一瞬「根掛かり」かと。ところがそれは突然川下の方へ。慌てて竿を川上に倒し「しなり」を利用して数秒ぐらい(その時間が妙に長い!)耐えたが、竿を見上げたら4番まで大きく曲がっているのにびっくり!こりゃ大物だなと直感。近くの釣り人の足に絡まったら一巻の終わりだから、慎重に川上の上へじらしてから、ようやくタモに入れることが出来た。手にして改めてびっくり仰天!40.5センチの綺麗なイワナでした。そんな大物は今まで釣ったことがないので、もう、感激。そして、それをどうしようかなと。今後こんな大物に巡り会えることは、もうないと思うといとおしくなって、一瞬リリースしてしまおうかなと思った。

数年前に放流されたのが野生化して大きくなったイワナだと思うが、よくも透明度が低い汚い川で生き延びてきたモノだと思う。それにしても、多摩川と言う川は、かの野田知祐さんが「きったなくてカヌーで遊ぶ気にもなれない」とこき下ろしているほど、近年汚染が進んでいるに関わらず、尺以上のヤマメが釣れたというニュースがよく出てくる。数は少なくなってきても、たくましく生きていく魚がいるということは、悲しんでいいのかな、喜んでいいのかな。

後は調子が戻って、「入れ食い状態」でポンポンと快調に釣って、餌がなくなり次第納竿したのは3時半でした。実働3時間半で総計18尾ゲットは、前年よりも2倍もいい釣果でした。運もあったと思うが素直にうれしい。

40.5cm
今までの最大サイズに感激!
魚拓を取る会長
「かじか」にある魚拓で最大サイズとなった

帰路、「かじか」に寄って会長に「魚拓」をとっていただきました。それで、私は渓道楽の面々に大きな顔ができるということ。居合わせた副会長は、「君、今年の釣りはもういいでないの?」と悔し紛れ(?)におっしゃってきたが、まあ、今年の渓道楽の大物大賞間違いなしというというところか。とにかく、渓道楽里川部会(?)の実力を図らずも示すことが出来ただけでなく、渓流解禁の時に幸先のいいスタートが出来て良かったと思う。







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