HOMEBACK

新潟県 飯豊連峰 胎内川
2000.08.25〜27
小峰吐渓さん、吉田よしみさん、安河内剛・
美由紀さん、中村敏之、高野智









Text:高野 智
Photo :中村 敏之、高野 智
 

来るんじゃなかった・・・

 「ゴボッ、ゴボッ!」
 深く切り立ったゴルジュの中、背の立たない深場の水の中で開けた私の目に飛び込んできたのは、どのくらい深さがあるか分らない底にある岩と、青く見える水の色。その色は私には死の世界の入り口に見えた。
 「やばっ! ザックが邪魔で顔が上がらないよぉ」
 上流から投げられたザイルに掴まりながら、息をするために頭を上げようとするのだけれど、パンパンに中身の入ったザックが邪魔をして顔を水面に出すことができない。
 「小峰さん、俺をこんなところに連れてきて、もし死んだら憑依してやる!」

 ここは新潟県飯豊連峰を流れる胎内川。水に磨かれてツルツルの切り立ったゴルジュが我々の遡行を阻んでいる。
 その胎内川のゴルジュを突破しようとして、溺れかかっている私・・・。流れのゆるい淵で空身で泳いだ経験はあるけれど、65リットルのザックを背負ってザイルを手繰った経験は初めて。要領の分らない私はゴルジュの中でもがいていた。

一人づつ吊り橋を渡る
夢の世界への入り口・・・
胎内川遡行の前に河原で一休み
いきなりゴルジュのお出迎え
この渓の険しさは計り知れない

 ほんの数時間前、車は胎内ダムを過ぎて車止めの胎内ヒュッテに向かって走っていた。車止めには夜明け前に到着。エンジンを切ると辺りは静寂に包まれ、空には無数の星が煌いている。
 「どうやら今日はピーカンのようだ。きっと今までで一番の素晴らしい沢旅になるに違いない」
 と、このときはそう信じていた。なのに、なのにゴルジュの中で溺れかかっているなんて・・・。今日は今までの沢旅の中で最悪の日だ!

ザックピストンで引っ張られる私
このほんの少し前に死の淵が見えた

ミルキーボーイズ&ウワバミガールズ
 今回の釣行は小峰吐渓氏の作っている「源流紀行」の取材で胎内川にやってきた。メンバーはリーダーの安河内さん、小峰さん、渓道楽の中村、私(高野)のミルキーボーイズ4名と、安河内さんの奥さんの美由紀さん、吉田よしみさんのウワバミガールズの2名。
 ミルキーボーイズって何? という皆さんに説明しよう。ミルキーボーイズとは某ジャニーズのような美少年の集まり・・・では決してない。体質的に酒の飲めないメンバーの集まりなのだ。
 酒が飲めない人なんているの?と思うかもしれないけれど、日本人の4人に1人は体質的に飲めないのである。医学的な説明はおいといて、とにかく飲めないものは飲めない。そりゃ、私だって酒が飲めればいいなとは思う。
酒が飲めれば、あの娘とあの娘はムニャムニャムニャとなったかも知れない。(ないない!絶対ない!<外野の声)

 訓練すれば酒が強くなるというのは大間違い。皆さんも飲めない人には無理に勧めないように。

泳ぎにヘツリ よしみさんの技術は素晴らしい

 対して、ウワバミガールズ。こちらは読んで字のごとし、ザルを通り越して筒状態のお二人。ザルなら少しは引っかかるが、筒だと素通りなのだ。いったいその細い体のどこに何リットルもの酒が納まるのだろうか・・・。

 といった酒の飲めない4名といくらでも飲める2名が胎内川のゴルジュにいた。
 溺れかかったゴルジュまでは快適な遡行であった。雲一つ無く晴れ渡った空、葉脈まで透けて見えるような緑の木々。深い淵の底には尺2寸はある岩魚が泳ぎ、ユラユラと岩陰に隠れる。
 ちょっとアブがうるさいけれど、予想していたよりもずっと少なく、遡行を困難にするほどの水量もない。
 これだけの条件が整っていれば最高の山釣りだと誰だって思うはず。そこのあなたもそう思うでしょ?
 なのにゴルジュで溺れかかっているなんて・・・、最悪も最悪!

深い淵をスイスイと泳ぐ安河内さん
頼りになる男だ

 なんとかそこを突破したと思ったら、またゴルジュの泳ぎ。安河内さんが果敢に先頭を切り、ザイルを引いて泳ぎ切る。
 「すげぇ〜、カッチョいい〜」
 ああいうところに美由紀さんはホレたのだろうか? スイスイとゴルジュを泳ぐ姿に私もポーっと・・・ならないならない、そっちの趣味はない(笑)

踏み跡のほうがマシ?
 ここを突破すればしばらくは、と思ったのだが、胎内はそんなに甘い川じゃなかった。その先もまだまだゴルジュは続いていたのだ。真夏とは言っても渓の水は冷たく、ただでさえ皮下脂肪の無い私は寒くてしかたがない。
 「この先もずっとこんな感じですねぇ」と偵察してきた安河内さん。
 「上に踏み跡があるはずだから見てきますよ」とザイルを持って左岸の壁に取り付き空身で登って行った。
 しばらくすると「行けそうです!」との声。我々はウワバミガールズを先頭に登り始める。が、そこは草つきでズルズルと滑る土の壁。手がかり足がかりも無く、必死に登る。斜度はキツイところでは50度はあるだろうか、ザイルに掴まり滑り落ちながら、50mも登っただろう。ようやく潅木の生えたところまで辿り着き、最後の急斜面を越えると樹林帯に逃げ込むことができた。

はるか下に胎内の流れを望む

 後続のメンバーはどうだろうかと覗き込むと、途中で出会った2名のうち、菊地さんが登ってきた。それに続いているはずの石井さんが来ない。あまりのザックの重さに耐えられずにザックを置いて来ているようである。「テン場で呑んだくれるんですよ」と言っていたから、ザックの中には酒が沢山入っているのだろう。あとで聞いたのだが、最後に石井さんのザックを担いできた安河内さん曰く「メチャクチャ重くて、持ち上がらなかったですよ」とのこと。それじゃキツイのも無理はない。
 なんとか全員が登りきったのは約2時間後のことであった。

 登りきったところの森の中にへたり込む8名。川では寒くてしかたがなかったのに、ここでは暑くて暑くて汗が滝のように流れ落ちる。悪いことに下で水を汲んでこなかったため、全員が水切れを起こして喉を潤すことすらできない。さっきまで溺れるほど水があったのに・・・。こんなことなら溺れていたほうがマシだったか。いやいや、溺れるのはもう御免だよ。

 菊地さんが相当へばってしまった様子で、「もう少し休んでから行きます。楢ノ木沢で泊る予定ですから、先に行ってください」と言われ、我々6名は重い腰を上げた。

 ここからは楢ノ木沢まで踏み跡を辿るのだが、森の中は風が抜けず猛烈な暑さであった。さらに斜面にきってある踏み跡は快適とは言いがたく、潅木をたよりにトラバースするのも数え切れず。おまけに水切れときていては、進むペースも上がらない。どこかに沢が落ち込んでないものかと、フラフラしながら前進した。

 やがて踏み跡は小さな沢を横切った。しかし、涸沢である。湿ったコケはあるのだが、水が流れていない。でも、もしかしたらと思い少し登ってみると「あった、あった、水ですよ!」
 全員が浴びるほど飲んだのは言うまでもない。それにしても、あればあったで溺れそうになるし、なければないで干上がるしで、つくづくワガママな私である。

 踏み跡を辿って1時間程歩いただろうか、ブナの森の中に広々とした空間が広がった。楢ノ木沢のテン場である。「ようやくここまで来たのか、でも、先はまだ長いんだよなぁ」
 楢ノ木沢に降りた我々は沢に浸かってオーバーヒートした全身を冷却する。浸かったとたんにジュッ!っと音がするんじゃないかと思った。
「ヒュー、キッモチいい〜!」

熱く燃える魂を渓の水が冷やしてくれる

 クールダウンが終われば昼飯だ。腹が減っては力が出ない。デザートには安河内さんからミカンの差し入れ。まさかここでミカンが食べられるとは思わなかった。安河内さんありがとう!

 休んでいると上から我々を呼ぶ声がする。見上げると菊地さんと石井さんだ。テン場に無事着いた安心感からだろうか、最高の笑顔が印象的だった。

 菊地さん達とはここでお別れだ。さあ、この先どうするか。作四郎沢まで踏み跡を辿るか、川通しで行くか。しかし、この先の本流がどうなっているか分らない。結局安全策をとって踏み跡を辿ることにした。
 しかし、作四郎沢までの踏み跡は酷いものであった。足場はズルズルと滑り、数多くの薮や倒木を掻き分けて2時間以上。背中のザックはズシリと肩に食い込み、もう歩きたくない状態。
 足は棒のようになり力も入らず、倒木を跨ごうとしても足が思ったように上がらない。渓道楽2名はだんだんと遅れがちに。
 それにくらべて足取りの軽いのはウワバミガールズ。華奢な体なのにグングン進む。やはり女は強しである。

作四郎沢出合
ここの魚止めは近いという

 踏み跡がだんだんと高度を下げてきたと思ったら、ようやく作四郎沢に到着した。私は河原に腰を下ろし、ようやく一息入れることができた。
 もうここからは踏み跡はない。何があろうと川通しで行くしかないのである。なんとか予定どおり浦島の廊下を突破して、テン場に着けるのだろうか。日もだんだんと傾いてきている。急がないと・・・。

泳ぎが入る毎に疲労が溜まる 浦島の廊下
渓流釣りを始めた頃からの憧れの場所

憧れの浦島の廊下へ
 作四郎沢を過ぎてもなお、胎内川は険しさを保ったままである。偽浦島を胸まで浸かって突破し、ついに浦島の廊下までやってきた。ここは胎内川の名所。その昔は難所であったが、今は膨大な量の土砂で埋まり、渇水のこの時期は楽々と越えることができた。これで私の今回の目的の一つが達成された。
 あこがれの胎内川の浦島の廊下。渓流釣りを始めた7年ほど前、書店で手に取った一冊の本、白石勝彦氏の書いた「大イワナの滝壷」。その本に胎内川を20年以上前に遡行したときのことが書かれていた。その険しく素晴らしい渓に自分の足でやってくることができたのである。白石氏の見た20年前の渓を、今自分の目で見ているのである。夢を一つ叶える事ができた私は最高の気分だった。
 「さあ、テン場までもう一息だ。気合を入れなおして歩こう。」

 そこから30分も歩いただろうか、渓はようやく優しい雰囲気を漂わせ始め、両岸に河原が広がり始めた。2度ほど泳ぎを入れた後、右岸の狭い河原をテン場として、重たい荷を下ろすことができたのである。

浦島の廊下を越えてテン場を探す ここまで来ても胎内川は優しい顔を見せなかった

 「よし、オカズを釣りにいくぞ」
 小峰さんがメンバーを募る。ここまでひたすら歩くだけだった。へばっていても釣りとなれば黙っていられない性分である。「俺、行きます」と手を上げて、釣り道具を引っ張り出す。
 小峰さんはテンカラ、私はドバの餌釣りである。
 渓相は先ほどとは打って変わって開けた河原が続いている。小峰さんに追いつくと「今、デカイのをバラした!」と悔しがっていた。
「よしよし、デカイのが居るぞ〜」と先ほどまでへばっていた自分とは別の自分がそこに居た。

 下流から静かに近づき、渕尻の流れにそっと餌を落とす。ゆっくりと流れる目印がスゥーと動く。まだアワセない。まだ、まだ・・・。たまに糸を張り聞いてみる。「ククッ、ククッ」という手ごたえ。「これ、これ。これが味わいたくてここまで来たんだよ」
 ビシッとアワセるといい手ごたえが伝わってくる。胎内川第一号のイワナは美しい居着きの8寸だった。
 その後、3尾ほど追加したところで辺りに闇が迫ってきた。一人一尾のオカズには足りなかったけれど、もう戻らないと。続きはまた明日・・・。

胎内川1日目の夜
一日の疲れが心地よく取れていく

 夕食は釣ったばかりのイワナの刺身や肉野菜炒め等々の豪華なメニュー。ミルキーボーイズはトロピカルなジュース、カルピス。対してウワバミガールズはビールに焼酎。一般的には逆のような気もするが気にしない、気にしない。デザートにはフルーツゼリーまで付いて素晴らしい夕食であった。
 渓底から空を見上げると細長く、うっすらと焚き火の煙が流れて行く。たった今、この渓に居るのは1億2000万人の日本人のうちの、ほんの数名。この贅沢は、幾らお金を出しても味わえないのである。

いよいよ釣りだ!
 胎内川2日目の朝は6時過ぎに目が覚めた。川のほうを見ると安河内さんが竿を出している。
 「何尾か釣れましたよ」
 テン場の前で釣れるなんて、さすが胎内! このぶんなら今日は爆釣だ。私はうずうずしてきたが、ここは山奥。先行者争いがあるわけでもない。私が源流が好きな理由はそれもある。我々は、のんびりと朝飯を食べて9時過ぎに出発した。

胎内川でのテン場
広い場所はなく増水したらすぐにも水没しそうだ

 昨日、小峰さんと私が竿をしまったところまで行き、そこから釣りはじめる。まずは、まだ竿を出していないウワバミガールズの2人が先行する。小峰さんと私は写真を撮りながらついて行った。
 しばらく釣り上がって行くと、なんたることか、上流から3人組が降りてくるではないか! 
 「あちゃ〜、こりゃ終わりだぁ」
 いくら源流のスレてないイワナとは言っても、水の中をバシャバシャやられては警戒するだろう・・・。40cmへの期待はこの時点で早くも打ち砕かれたのであった。
 しかし、人が降りてきたからといって、ここで釣りを止めるわけにはいかないのである。幸いゴルジュ帯ではないので、河原を歩いてきたところなら釣りになるだろう。そこそこのサイズなら食ってくるだろうと、気を取り直して遡行を再開した。

 よしみさんがテンカラで釣りあがっていく。見てると凄くかっこいい。跳ね上げた竿に導かれてラインがきれいな弧を描き、スーっと伸びていく。
 やっぱり源流にはテンカラが似合うなぁ。どんなもんかと私もやってみるが、上手く飛んでくれない。失速したラインが目の前に落ちる。小峰さんに教えてもらうと結構飛ぶようになってきた。
 後ろへは素早く、前にはゆっくりと。なるほど、やっぱりテンカラは自己流じゃダメか。

千の木沢が5段の滝で出合う テン場上流の流れ
ここまでくると胎内の流れも穏やかになる

 だが、安河内さんの餌にも、ウワバミガールズの毛鉤にも、いっこうにアタリがない。やはり人が歩いた影響があるのだろうか。

 落ち込みからの開き、ぶっつけの淵、白泡の切れ目。みんな決して釣りが下手なわけではないのに、イワナは相手をしてくれない。
 時計を見るとすでに昼近い時間である。そろそろ写真を撮ってばかりも飽きてきた。
 「小峰さん、そろそろ釣らせてもらいますね」と一声かけて、そそくさと釣り竿を繋ぐ私。
 毛鉤もブドウ虫もダメとなればドバちゃんの出番だ。大きめのドバをハリにチョン掛けにして、下流からそっとポイントに近づく。そうまるで’こそ泥’のよう、じゃなくって’忍者’のように。

じっくりと待ってアワセる
源流ならではの美しいイワナが踊る

 白泡の切れ間にそっと餌を流し込み、ゆっくりと流れに乗せる。漂う目印は渕尻に近づくと、すっと止まる。軽く糸を張り聞いてみる。ククッ、ククッと竿を通して伝わる手ごたえ。十分に待ってアワセをくれると腹の黄色い美しいイワナが宙を舞う。
 それでも昨日に比べるとアタリは少ないようだ。私は昨日の遡行の苦労に報いるためにドンドン釣り上がっていく。

 ふと見ると右岸から沢が入っている。本流からの一つ目の落ち込みに目が行った。過去何度も同じような状況で良型が出た経験から、ここでもきっとという予感が・・・。
 水量は少ないが小さな滝の下はエグレて深くなっている。ゆっくりと近づきドバを投入すると、いきなりアタリが来た。ドバのチョン掛けで早合わせは厳禁。じっくりと待って確実に掛けることだ。
 小さな滝壷から上がってきたのは9寸の良型。やっぱり1つ目の落ち込みにはいいのが入ってるなぁ。
 ここまで不漁の安河内さんも支流に入り、すぐに8寸を取ってきた。

 時間はちょうどお昼時、ここらで昼飯とする。
 「たかさん、昼飯ができるまで支流を釣ってきなよ」 小峰さんがそう言ってくれたので、30分ほど支流に入ることにした。

渓には赤とんぼが乱舞していた 昼飯は冷麺 キムチスープ!

 支流は小さな落ち込みが連続し倒木も多く、また上から木も被さっている。一つ一つ丁寧に探り、さらに2尾の良型を追加できた。

支流での30分の釣果

 昼飯を食べて一休みしていると、なにやら上流の空にいやらしい雲が忍び寄っている。
 「よし、仕事も終わったし、天気も心配だから今日はここまで」と小峰さんの号令でテン場に引き返す。

 テン場に着いてしばらくするとアブが居なくなった。
 「こりゃ、雨が降るなぁ」と小峰さんが言っていると、ポツポツと来て、やがて土砂降りになってしまった。さすが小峰さん、ベテランの言うことは必ず当たるもの。私も早くその域に達したいものである。

 幸い雨はたいした量は降らず、テン場が流されることもなかった。

雨後の夕マズメに大物は出るか?
 さて、雨が上がれば入れ食いタイム! 他の皆はさっさと着替えてしまったが、私は夕マズメをやるために濡れた服を我慢して着ていたのである。
  下流には良さそうなポイントが沢山あったので、今度は下流を探ってみた。だが、予想に反して7寸が1尾出たのみ。上流よりもずっと良い渓相なんだけどなぁ。
 テン場に戻ると小峰さんが「なんで着替えないのかと思ったら、そういうことだったのかい」と笑いながら言っている。
 そうそう、苦労して来たからには目一杯楽しまないとね。

 そしてお楽しみの夕飯の時間。今晩のメインは天ぷら。安河内夫妻の作る天ぷらは、今まで食べたことがないほどの美味。イワナ、サツマイモ、ナス等々どれもこれも最高の味だった。
 面白かったのはスルメの天ぷら。私がウワバミガールズのおつまみにと思って持ってきたのだが、「これ天ぷらにすると美味しいんだよ」とのことなので、やってみると美味しい! 初めて食べたが結構いける味であった。

 今日はそんなに疲れていないので、皆元気である。胎内川の渓に遅くまで笑い声が響き渡っていた。そして、やっぱり最後までガハハ笑いをして騒いでいたのはウワバミガールズの二人。お二人の体力にはホント脱帽です。

楽しい時の終わり
 ゆっくりと目を覚ますと眩しい日差しが渓に差し込んでいた。とうとう帰る日になってしまった。楽しいときの時間はどうしてこうも早く流れるのだろうか。

 天丼をかっこんだ我々6人は荷物をまとめ、テン場に深々と礼をして歩き出した。完璧?にマスターしたラッコ泳ぎでドンドン下る。足が着く淵だってラッコ泳ぎだ。

浦島の廊下を通過し、
一歩一歩下界に近づいて行く

 あっという間に作四郎沢を過ぎ、楢ノ木の出会いに着いてしまった。実際には2時間くらい掛かっているのだが、行きの大変さに比べたらなんでもない。ラッコ泳ぎ最高である!

 楢ノ木からは踏み跡を辿る。しっかりと水を補給し暑い山道を歩き出す。ここからだと何時間掛かるだろうか。ときおり木々の間から見える渓はゴルジュとなって険しさが想像される。
 適当なところで渓に降りてラッコ泳ぎで帰りたいのだが、道は高い所を通っているため、容易には下降できそうもない。
 そうこうするうちに、なんと工事現場の吊り橋に着いてしまった。
 「ええっ、もう着いちゃったの?」なんだか拍子抜けである。

 渓の流れにオーバーヒートした体を浸けて、胎内川を振り返る。険しかったけれども、やはり素晴らしい渓であった。しかし、奥胎内ダムの工事は始まっている。このダムができてしまったら、どこまでダム湖に沈んでしまうのだろう。下のゴルジュ帯は間違いなく湖の底・・・。美しい渓も淀んだダム湖の底になってしまうなんて、なんともやり切れない想いだ。



楢ノ木のテン場に生えていた乳茸 踏み跡の途中の沢で一休み 夢の終わり・・・
最後によしみさんが締めてくれた
再びこの渓のイワナに会いに来よう
ダム工事のための立派な道
全てのダムがいらないとは言えないけれど、
できれば美しい渓を残してもらいたい

 水浴びをしている所の上の淵で、よしみさんの毛鉤にイワナが踊った。ダムの底になってしまう前に、もう一度、いや何度でも訪れよう。そして、今度は水線通しで胎内川と遊ぼうと思った。


 HOMEBACK