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山形県 朝日連峰 荒川

 1999.08.21(土)〜22(日)

 瀬谷、中村、高野
      









Text&Photo :高野 智 

曲滝の上は桃源郷!?
      
 山形県の朝日連峰、ここには有名な渓流がいくつもある。なかにはエキスパートが大喜びするような渓もあるが、我々にはとてもそこまでの技術や体力はない。とはいっても源流には行きたい。「どこか、良い渓はないですか。」と川上顧問に相談すると、「荒川源流に行けよ。曲滝の上は桃源郷だぞ。」とのアドバイス。が、地図で確認すると曲滝の上は等高線が細かく記され、かなりの険しさなのでは・・・。それに途中までは登山道を使うとしても、そこから川通しで行くとなると1泊では釣りができないのではないかということもあり、とりあえず行ってみてテン場を決めようということになった。

 今回は川上顧問が「あと10才若ければ、かなりのクライマーになったのに。」と言うほど、ルートを見いだすことがうまい瀬谷氏。私とは20年来の付き合いの中村氏、そして私の3人での釣行となった。

 出発前に「かじか」に寄って会長からも情報を仕入れ、田辺氏を拾って彼の会社まで餌のドバちゃんを取りに行く。「会社の敷地内にドバがウジャウジャなんて最高だよな」と、皆でせっせとドバを取り、田辺氏を家に送ってから出発した。

豊かなブナの森へ

 車止めに到着したのは5時頃と少し遅くなってしまったが、幸い地元の軽自動車が1台だけ。山仕事かなにかだろうか、ドアはロックされていないし、おまけにキーまで付いている。「なんだ、乗り捨ててあるのか」とか「これは、きっと緊急用に置いてあるんだよ」とか勝手なことを言いつつ、登山者名簿に名前を記入して出発する。

 吊り橋を渡るとブナの森の道となり気持ちが良い。この辺りは伐採されていないため、原始の森そのままの姿をとどめている。このブナたちはいつからここに立っているのだろうか。また、何人の人間が歩くのを見守ってきたのだろうか。
日常の喧騒は吊り橋の向こうに置き去りにされた 渓の真ん中に孤独な杉の木があった 彼はいつから一人なのだろうか

 この登山道をどんどん行くと、大朝日岳に到る。そして、稜線を辿って行けば、7月に行った八久和源流のすぐ上を通る。また荒川右岸の尾根を一つ越せば末沢川、その隣は三面川の支流である。地図の上ではすぐなのだが、実際の距離のなんと遠いことよ。

 そんなことを考えながら行くと、角楢小屋に到着した。中を覗いて見ると結構きれいに使われていた。水場が遠いのが難点だが、ここに泊まるのも楽しそうだ。

 その後何度か本流を渡り、登山道が荒川と別れて稜線に向かう大玉沢まで来た。そこから大玉沢に降りて荒川出会いに到着。ここから本流を行き、もっと上にテン場を設けるか、ここにテン場を設けて空身で釣るか迷ったのだが、このまま行っても曲滝手前までどの位時間がかかるか判らないので、ここをテン場として釣りをすることに決定。こういうときは渓道楽は軟弱なんだよね〜。

 そうと決まれば一段高くなった場所にテントを設営し、すぐに釣り始める。この辺りは瀬が続いて大場所がほとんどない平川。そんななかで、それぞれ「ここぞ」というポイントに竿を出していくのだが、全然アタリがないではないか。ここらは結構釣られているのかな〜と、ずんずん釣り上がっていく。天気は快晴で最高だが、ちょっとアブがうるさい。それほど大量ではないのだが、刺されるのはごめん被りたい。
 ふと見上げるとヤマセミが渓を飛んでいた。

美しい岩魚たち

 しばらくは瀬が続いていたのだが、やがて小さな釜が出現。これには3人とも目の色が変わった。「やっぱり源流は大場所だよ。」と3人がそれぞれ竿を出す。まずは左岸に竿を出していた中村氏に来た。「おっ、結構良型じゃん」「尺あるかな〜」と中村氏、「う〜ん、そこまではないだろ」とメジャーを当てると28cm。でも、きれいな居つき岩魚だ。そんなふうに騒いでいると、今度は瀬谷氏の竿が曲がっている。「おっ、これも良型!」瀬谷氏の釣ったのは白い斑点が多い遡上物。これも9寸以上ある。残るは私だけか、と右岸側の白泡の消える辺りに餌を投入する。しばらくただよっていた仕掛けが止まったので、かるく聞きアワセ。確かに魚が掛かっているなと、バシッとアワセて抜き上げると7寸強の岩魚だった。ちょっとガッカリ。

中村氏の釣り上げた9寸強の岩魚 瀬谷氏と遡上岩魚

 気を取り直し小滝を乗っ越すともう一つの滝が。こっちの壺のほうが大きいし、なんだか大物の予感が・・・。早速白泡の消えるところにドバを放り込んだ。一投目はアタリ無し。もう一度同じコースに、もっと深く沈めると目印が止まった。軽く聞いてみると手応えあり。すかさずアワセてみると、なんだか重い。なんだよ根がかりか〜? と思ったら動きだした。「やっぱ、岩魚じゃん。それも大きいんじゃない」と慎重に竿を操作しタモに収めた。「こりゃ尺1寸位ありそうじゃない?」と親の欲目じゃないけれど、自分で釣った岩魚はついつい大きく見えてしまう。実際には31cmだったが、大きさよりもそのきれいなこと。今まで釣った岩魚のなかで、もっとも美しいのではないかと思うほど鮮やかな色だった。まちがいなく居つきの尺岩魚だ。

居つき岩魚31cm 写真では判らないが今まで釣った中で最高の美しさだった

 「こりゃ、この先パラダイスか〜」と右岸を登り滝上に出る。が、地図で見たとおり、その先は瀬が続いているようである。ちょうど昼時なので、ここで昼飯とする。「ここから先がきっと釣れるんだぜ」などと話していたのだが、なにやら空模様が怪しくなってきた。やがてポツポツと空から冷たいものが落ちてきたと思ったら、雷まで鳴り出してきた。ここ荒川は名前のとおりの川で、増水するのも早いと聞く。先週の大雨で丹沢で大勢の遭難者が出たばかりだし、我々はその仲間入りはしたくないので大急ぎでテン場に戻った。

 やがてバケツを引っ繰り返したような雨となり、川は茶色く濁り水位が上昇。しかたがないのでテントにもぐり込んで昼寝する。

 2時間も寝ただろうか。雨の音も小さくなり空も明るくなってきた。水位はまだ下がらないがテン場前の石裏のたるみに餌を入れると、一発で7寸岩魚が釣れた。「こりゃ、入れ食いだぜ」と急いで米を炊いて釣りモードに突入だ。

 多少水位は下がったものの、依然濁りは入っている。中村氏が徒渉しようとして流されそうになったので、慎重に渡り下流に向かった。

 テン場の直ぐ下は落ち込みになっていて、ちょうど良い淵もある。そこに竿を出すが私と中村氏にはアタリなし。だが瀬谷氏は2、3尾釣り上げた。しかし、釣れたのはそこまで。入れ食いのはずだったのに・・・。

 夜は晴れて満天の星空。釣り上げた岩魚だが尺物は明朝の蒲焼に、残りの4尾は焼きからしとしておいしく頂いた。焚き火を囲んでの夜はあっと言う間に過ぎていった。

不安定な天候に邪魔されて

 明け方、中村氏が一番に起き出して火を起こしてくれた。焚き火にあたり暖をとる。関東ではまだまだ残暑が厳しいが、もう山は秋の足音が聞こえている。渓には朝もやがかかり、実に風情がある。

 今日は天気もはっきりしない様子なので、釣りは中止して帰ることにした。あの滝の先が出来なかったのが残念だが、また大雨に降られてはたまらない。これは次回のお楽しみにとっておこう。次回は曲滝まで行こうと決めてブナの森を見ながら帰路についた。

名残惜しいがテン場を後にする 原生林の中を車止めに向かう 下界に戻る足取りはいつも重い
橋を渡りきると夢の世界ともお別れである
出来ればもうしばらく夢を見ていたい

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