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 渓流’98夏号?


  山形県 越後荒川水系 桧山沢

  1998.07.11(土)〜07.12(日)

  岩田会長、川上顧問、田辺氏、中村氏、私、根がかりクラブ:斉藤氏、向井氏

   天候:7/11曇り時々晴れ 7/12曇り時々雨


Text&Photo  :高野 智 

 飯豊連峰に源を発し大又沢や梅花皮(カイラギ)沢などの数々の支流を集めて玉川渓谷となり、山形県小国町で越後荒川に合流する桧山沢。上流部には人工物は一切ない自然の渓である。今回の渓道楽の釣行は顧問である川上健次氏の誘いで、この渓で大物を釣り上げようという魂胆だ。川上氏がいれば鬼に金棒、気分はまさに渓流’98夏号である。桧山沢に挑むメンバーは会長岩田氏、田辺氏、中村氏、私、そして顧問の川上氏の5名。他に根がかりクラブの若手、斉藤氏、向井氏が私たちを引っ張ってくれる。

サービスエリアにて

 7月10日金曜日、我々は’かじか’に集合してから川上氏の自宅に迎えに行き、荷物を積み込み川上氏宅を午後9時過ぎに出発する。今回は他に渓道楽里川部会(そんなのあるんか)の渡辺氏とその友人の永田氏も桧山沢近くの簡単な沢に入るので、那須高原SAで待ち合わせである。東北道の途中から雨が降りだし目指す渓に入れるのか不安になってくる。那須高原で合流した私たちは深夜の道をひたすら車止めに向かって走り続けた。

午前3時頃にようやく車止めに到着。ここで根がかりクラブの3人(のはずだったが、1名バッくれたようだ)を待つべく早速宴会が始まった。無事に根がかりの斉藤氏、向井氏と合流し夜が明けるのを待つ。明るくなるころには雨も上がり準備を整え出発した。ここから入渓地点までは1時間程だが、しばらくは林道歩きなので気が楽だ。私たちは今日中に車止めに戻るのでザックは軽いが、川上氏と斉藤氏、向井氏は渓で1泊するので20kgはあるザックを背負っている。ただし、中身の半分は酒だと思うが・・・。

出発前 ヒラタケ

 途中、カイラギ沢に入る里川部会の渡辺氏と友人の永田氏と別れて、歩くこと20分。桧山沢の下流部の堰堤に到着。ここから登山道に入り吊り橋まで行く途中で川上氏がヒラタケを発見、早速ビニール袋に詰める。ホントに川上氏はよく知っている。私たちだけではキノコは怖くて手が出せない。そこからちょっと歩いた所に大又沢出会があり吊り橋が掛かっている。ここから渓に降りるのだが、見るからに釣れそうなポイントが沢山ある。この流れを見て竿を出さずにはいられないと川上氏以外の全員で釣りはじめた。水に入るとメチャメチャ冷たい。源頭には雪渓があるそうで、まさに雪解け水のような冷たさである。腰まで漬かった時はキ○玉が痛くてタマらない。きっとパンツの中でクルミのようになっていると思われる。水は物凄く透き通っていて底まで丸見え。にしては魚がちっとも走らない。なんだかイヤ〜な予感・・・。誰の竿にもアタリが来ないので暫く釣り上がる。大又沢の出会をすぎると途端に渓は険しさを増して、両側の斜面が迫ってきた。ここからずっとこんな調子なのだろうか。川上氏達は慣れっこだろうが、私は少々心配になってきた。中村氏が来ないので川上氏以外のメンバ ーは遡行を始めた。もちろん河原など皆無なので、いきなりヘツリだ。落っこちたら冷たいじゃ済まないだろうな〜。私たちはわずかな足場から竿を出し進むが全然アタリがない。まあこの辺りまでは結構釣り人が入っているんだろうと軽く考えることにした。暫くして川上氏と中村氏が対岸を高巻いてきた。しかし、下降できないようで引き返す。後で聞いたら中村氏がギブアップしたらしい。彼いわく、「だって、手掛かりも足掛かりも殆ど無いんだぜ。あってもほんの数センチなんだから無理だよ」だって。まあ川上氏とは経験が違うからしかたないか。二人は少しもどってヘツリながらやってきた。根がかりの若手2人は登山道を使い先行しているようだ。

田辺氏 川上氏

 その後も巻きとヘツリを繰り返して竿を出しながら進むが、どこまで行ってもアタリは無し。まあ桧山沢は魚影が薄いとは聞いていたので、入れ食いは期待していなかったが、ここまで魚がいないなんて。一応、渓道楽は渓流釣り同好会なので岩魚が釣れないと皆元気が無くなってくる。まあ次々に現れる難所を突破していくのも楽しいんだけどね。
 そのうちゴルジュ状になった奥に滝がかかっている所に出た。そこで川上氏が「泳ぐぞ」と先頭を切ろうとしたのだが、「冷てえから、巻くぞ」だって。巻くったって高さはないけどかなり急な岩場。しかし、川上氏はささっと取りつくと簡単に登ってしまった。渓道楽の4人も後に続く。やってみると意外に簡単、だけど降りるのは辛そうだ。そんなことを繰り返しながら先行している根がかりの2人に追いついた。聞くとチビ岩魚1尾しか釣れないという。ちょうど大釜になっている所で大休止をとる。私たちが軽く腹ごしらえをしていると田辺氏が竿を継いで釣りはじめる。仕掛けは0.8号2ひろにデカイ鮎玉、餌はドバミミズちょんがけだ。ドバは出掛ける前に藪蚊に刺されながら私、田辺氏、中村氏の3人で掘ってきたものだ。それで30分も粘っただろうか、突然竿が曲がり出した。「やっと来たよ」と慎重に取り込む。見事な32cmの岩魚だった。田辺氏の粘りに脱帽だ。その後私も竿を出したがアタリ無しに終わった。粘るのは苦手なんだな〜。

大釜を釣る田辺氏 32cm岩魚

 そこからまた遡行し、小さな河原で昼食にした。川上氏の作ったそうめんをゴマダレで食べる。茹で加減も絶妙で、あっというまに無くなってしまった。「川上さん、ごちそうさまでした」そこで初めて川上氏がテンカラを振るが、やはりアタリは無し。ほんとにここには魚がいないようだ。 飯も食ったし遡行を再開。しかし、すぐに難所にぶつかってしまう。根がかりの若手が先頭でヘツって行った。我々も後に続くがホールドが小さいので落ちそうだ。会長はご老体なので無理せずに巻く。突破したとホッとしているまもなく一枚岩の傾斜している所に出てしまう。我々は落ちたくないので巻きに入るが物凄い藪に出てしまい、これ以上行っても釣れないだろうと引き返すことにした。川上氏にその旨を伝えて明日の2時に露天風呂で待ち合わせとした。

そうめん テンカラを振る川上氏
岩場をヘツる中村氏

 さあ、ここからは我々だけで戻らなくてはならない。先程ヘツッた所に取り付き、田辺氏、私、中村氏の順で進む。もちろん、ご老体の会長は巻き道に入る。しかし、ここでアクシデント発生!。田辺氏が難しいぶっつけの所を通過して私を待っていると、突然ガラガラという大きな音がして上から岩が落ちてきた。当たらなくてよかった。当たっていたら死んでいただろう。上を見るとなんと会長が・・・。その岩は会長が誤って落としたものだったのだ。そういえば今回は田辺氏だけが32cmの岩魚を上げている。それを妬んでの犯行に違いない(笑)。下を心配そうに覗き込む会長が「チェッ」と舌打ちをするのを私は聞き逃さなかった。(ウソです〜、会長) 教訓、下に人がいる所は絶対に巻いてはいけない(あたりまえか)。まあ、笑い話で済んでよかった。

 先程、昼飯を食べた所を張ってもらったザイルをたよりに徒渉し、またまた巻きに入る。しかし、下降地点を見失い行き過ぎてしまう。30分以上さまようが見つからずに元の場所に引き返し、ようやく下降地点を見つけた。下降したあと浅場を徒渉し右岸に取りつく。ここからはわずかな踏み跡をたよりに山の斜面を行くことにする。渓に降りても川通しには行けないので面倒だと思ったからだ。しかし、踏み跡も不明瞭で滑りやすく何度も滑り落ちそうになりながら、3時間かけてようやく吊り橋までたどり着いた。ここまでくれば楽勝だ。我々はそこで大休止を取り林道を歩いて車に戻った。
中村氏と18cm岩魚

 さて、宿に着いた我々は会長と田辺氏を残し、私と中村氏の2人で近くの沢に釣りに出掛けた。しかし、手頃な沢がなくて本流を渡る橋まで来てしまう。本流は平瀬であまり釣れなそうだ。しかたがないのでまた上流に戻り、高石沢に入ることにした。それにしても小さな沢だ。私たちは釣れないのを覚悟でその沢に下りたのだが、下りてすぐの小さな落ち込みでいきなりアタリがでた。ちょっとまってアワセたのだがバラシてしまった。7寸弱といったところだろうか。桧山沢のような綺麗な渓で出なくて、なんでこんなちっぽけな沢で出るのだろうか。取り敢えず岩魚が居るのは判ったので釣り上がることにする。するとまたアタリがあったので、さっきより待ってアワセたのだがバレてしまう。おかしいな〜、なんでかからないのだろう。その後中村氏が12cmのチビ岩魚1尾と18cmの岩魚を釣り上げる。しかし、時間切れで戻ることになってしまい、結局私は1尾も釣ることが出来なかった。しかたがない、明日に期待するとしよう。

 そうそう、カイラギ沢に入った里川部会だが、かなり上流の滝まで釣り上がったそうだが3尾しか出なかったらしい。上流部は岩魚は極めて少ないようだ。この辺りは登山や沢登りに来るのなら良いが、釣りにくるところでは無い様だ。

 7月12日日曜日。我々は疲れのために7時過ぎまで睡眠を取り、ゆっくりと朝食を食べてから出発した。今日は適当な沢を見つけて2手に別れて釣りをすることになっている。里川部会の渡辺さんと友人は帰りは我々とは別なので下流で釣るらしい。
渓の流れ

 車でズンズン下流に向かい適当な沢に入る。今回の組み合わせは私と会長、田辺氏と中村氏となった。私達が入った沢は木が被さっていて雰囲気は最高の沢だった。準備の出来た私は早速落ち込みに餌を振り込む。と、とたんに6寸の岩魚が出た。こりゃいいぞと、会長と交互に釣り上がって行く。しかし、しばらく行くと堰堤出現!。ちょっとガッカリだ、が気を取り直して第一投。とたんに目印に変化が出た。釣れたのは綺麗な7寸程の岩魚だ。やっと釣れた〜とホッとする。会長は右岸側の岩盤を狙っている。ここで会長にも待望のアタリが出た。釣れたのは28cmの見事な岩魚だった。昨日あれ程釣れなかったのに、今日はどうしたのだろう。私達は堰堤を巻きさらに上流を目指す。堰堤上は砂が溜まり平瀬になっておりポイントが少ないので、ちょっと上から再び竿を出す。落ち込みはそれほど大きいものはなく、大型はいなそうだ。その後私達は1尾づつ追加して滝にたどり着いた。ここにはいかにも大物が潜んでいそうだ。二人はブドウ虫を餌に何度か仕掛けを振り込んだ。しかし、ちっともアタリが出ない。ここには絶対にいるはずなので、餌をドバミミズにかえてやってみることにした。 ドバでの会長の一投目でいきなりアタリが出た。しかし、0.6号のちょうちん仕掛けなのでアワセ切れしてしまう。そのときの会長の悔しそうな顔といったら・・・。そこで、「会長、私やってもいいですか」と同じところを流したら、来ました来ました。餌がデカイので充分待って「飲め、飲め。胃袋まで飲め」とばかりに餌を送り込み、ビシッとアワセる。なかなか良い引きで上がってきたのは28cmの岩魚だった。やった〜と大喜びする。口からは会長のハリスが出ている。「会長、横取りしてすいませ〜ん」 仕掛けを直した会長が、「きっと、まだいるよ」となおも粘っている。それをカメラに収めた後、会長も諦めたようだ。私が「じゃ、今度私を撮って下さい。それとドバを一匹下さい」といったら、「写真撮るのに、餌付けるのか」と言われたのだが、どうせならもう一投とやらせてもらう。時間も無いのでこれが最後と餌を振り込む。やはりダメだった。もう居ませんね〜と竿をたたみながら岸に上がろうとすると、仕掛けが大岩の向こう側に引っかかってしまった。竿をあおって外そうとした瞬間のことだった。ぶるぶると竿に魚の手応えが・・・。「来ました」と取り込んだのは、また また28cmの岩魚。こんなことってあるんだな〜、と2人で大笑いだった。どうやらもっと手前のエグレに居たらしく、2人とも滝に近いところをやり過ぎたようだ。今頃田辺氏達は釣れているかな〜と2人は足取りも軽く待ち合わせ場所に戻ったのだった。

滝壺を釣る会長 2尾の28cm岩魚

 待ち合わせ場所には既に2人は到着していた。ニコニコしながら帰ってきた私たちを見て釣れたのが判ったらしい。「いいな〜」と言っているので、「ダメだったの」と聞くとなんと禁漁の沢に入ってしまったらしい。苦労して上っていったら禁漁の立て札がありガッカリして帰ってきたとのこと。これで中村氏は良型ゼロになってしまった。

 川上氏とは2時に露天風呂で待ち合わせなので、また車で引き返し無事に合流し露天風呂で汗を流す。一休みした後に帰路に着くことにしたのだが、キープゼロの中村氏が可哀相なので川上氏がとっておきの沢を教えてくれるという。というわけで急遽夕マズメをやることになった。川上氏の秘密の沢は橋から下りた直ぐの堰堤で入れ食いだという。ここでなら釣れるだろうと中村氏が準備していると、なぜか会長も用意している。「あれ、会長なにしてんの」と言われても「ん、ちょっと小便」だって。なんで小便するのに釣りベスト着てるんじゃ〜、と言う間にさっさと上流に向かって行ってしまった。まったく会長ったら。

 さて、中村氏だがドバを付けて大物を狙うのだが手前は小物ばかり。橋の上からは川上氏が見ているし、他の外野もうるさいしで、なかなか良型が出ない。小物ではドバが口に入らずにアタリは出るのだが上げるとポチャンと落ちてしまう。もう堰堤の左際の巻き込みしかないと川上氏と田辺氏のアドバイスを受け、木の枝の張出した難しいところに餌を投入。すぐにアタリが出るが充分飲ませてからアワセた。しかし、バラシてしまう。完全に運に見放されているようだ。会長が戻ってきたので聞いてみると7寸クラスを3尾釣ったそうだ。ついに中村氏がギブアップして田辺氏に交代した。田辺氏が白泡の中に仕掛けを沈めてやるとすぐにアタリが出た。掛かったのは9寸近いヤマメだった。これで中村氏のプライドが音を立てて崩れていったのは言うまでもない。それはそうと、田辺さん取り込みに夢中になって私のカメラを水没させないでね。

 田辺氏がヤマメを釣り上げたところで今回の山形釣行は納竿となった。1日目は今まで経験したことのない渓に入り、ずいぶんと貴重な経験をした。川上氏のような経験者がいなければ遡行不可能だっただろう。実際、桧山沢で何人も亡くなった人がいるらしい。川上顧問と根がかりクラブの方には本当にお世話になりました。この場を借りてお礼を申し上げます。どうも有り難うございました。

 帰りには鹿沼にある、けむし屋の中尾氏にもお会いできて貴重で楽しい話をきくことも出来た。家に着いたのは午前2時過ぎでヘトヘトだったが、また川上氏や他のメンバーと一緒に釣行したいと思う。


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