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八ヶ岳(赤岳) 標高2,899m

2006.07.15〜16

中村、伊藤






Text & Photo  : 伊藤 智博

 長野、山梨両県にまたがり南北約25km東西約15キロにも及ぶ広がりをもつ八ヶ岳連峰。毎年6千人以上の登山客が訪れるという。
 日頃から何かとご指導を戴いている先輩の中村さんと八ヶ岳(赤岳)を計画したのは源流釣の足慣らしにと登った日光男体山の帰りの車であった。
「次は泊まりでどっかアタックしようよ!それで写真もいっぱい撮ってさ!」そんな誘いを戴き、まだ見ぬ山頂から年賀状用にと、ポーズを決める自分の姿を思い浮かべていた。
 赤岳までのルートは登りは清里から、下山は行者小屋・美濃戸口へとした。登山道で撮影する時間を含めて各6時間をみておけば可能であろう。夜行で大宮を出発し中央道須玉インター下車、大泉清里スキー場近くに駐車場スペースを見つけひと眠りとなった。目が覚めると爽やかな高原の朝が私達二人を迎えてくれた。
 源流釣行と違いザックは軽い。早速一眼レフを首にぶら下げ得意げに登り始めた。この清里ルートは山頂との標高差が1,200メートルであり、登り始めはルンルンで行ける。中村さんも良いペースで快調に距離をかせいだ。見晴らしの良い所では時間をかけ撮影を楽しむ。あれは○○岳でその奥は○○岳、以前なら南アルプスは「天然水」くらいしか思い浮かばなかったが、事前に登山専門書を読んで来たため、不確かながらも連なる名山に感動を覚えた。

 しばらく進むと「小天狗」の分岐に到着。はじめてのルートでは高原地図が頼りでありポイントに到着するとほっとする。タイムや高度を確認しあった。見界尾根はほどよい登り、「大天狗」(2,445m)までは問題なく到着できた。このまま行けば山頂は近い。後ろを振り返っては眼下に見える景色を楽しみ会話がはずんだ。「よく登ったよな〜。結構登りましたね〜。」誰でもその言葉は出るであろう。涼しい事もあり体力の消耗も少なかった。
 突然ルートが岩場に変わり、そしてクサリ場といわれる地帯に到着。クサリのある場所まで行くのにも危険な足場で気が抜けない。頂上が近いのであろう。高原地図には黄色マルで『危』と記されている。簡単に言うと落ちたらアウト。山屋さんの度胸はすごいものがある。普通に考えれば落ちないであろうが落ちたらアウト。絶対アウト。この怖さは誰かに伝えたいと思いつつ、コンパクトデジタルカメラを中村さんに渡し、ちゃっかり先に行かせてもらう。足場は握りこぶしほどの岩が多く落石に気を使う。

 最近の自分は年に1度は危険な状況で自分を試す経験をしたいと思っていた。ヤバイ場所で足がすくんでも前に進み、無事クリアーの達成感。日常生活で、毎日繰り返されるちっぽけと思える悩みなどを、くだらねーこれがヤバイと言う事なのか?笑っちゃうね!そんな「かて」に経験がほしかった。しかしながらそんな経験をする予定は9月にアッタクする早出川のジッピでと考えており、心の準備をせずスーパージェットコースターに乗ってしまった、そんな状態で必死に登り続けた。中村さんは常に冷静で手がかりや足場のイメージを取っている。自分の泣き顔には気付いていない。なにやらザックに収めた一眼レフで撮影をしろ!のゼスチャー、先輩の命令ではあったがすかさず高原地図で視線をさえぎり自己確保に努める。時間も昼近くになっており下山の数人がクサリをつたって降りてきた。さすがに全員顔がイッテいた。下で待つ自分達をチラ、チラと見るだけで足場とクサリの位置を探している。誰もが危険を感じるポイントであろう。
 危険ポイントも時間にすれば30分であろうか、気付けばすっかりガスに包まれていた。体力が消耗しており行動食を口に含む。緊張からくる体力消耗は行動時間とは関係ない。気付いた時には既に時遅し。この事から山行中は定期的なエネルギーの補給は必要だと学ぶ。頂上まではわずか数十メートル、中村さんより励ましの言葉を戴き最後のふんばり。ヘロヘロになりながら山頂へ到着した。

 山頂は大勢の人がいた。ガスが広がり展望が悪いが誰もが満足した顔である。この雰囲気がフォトとして残せればすばらしいものであろう。赤岳山頂小屋の前で記念撮影。じわじわと登頂できた喜びがこみ上げてきた。時間は午後2時を過ぎており予約しておいた赤岳展望荘へ向かう。ルートは開けているが足場はガレ状態ヒヤヒヤである。他の人は怖くないのであろうか?上にも人がいて下にも人がいる、斜度もきつく気が抜けない。ふと足元で山野草が小さな花を咲かせているのに気付いた。目が慣れると斜面の一面に咲いているのではないか。
 展望荘では個室を予約していた。早々に受付を済まし部屋に直行。名物の「天の川天水・五右衛門風呂」を楽しむ。かけ湯をし浸かるだけだが、ありがたく思う。休憩室でビールを飲みながら夕食の時間を待つ。気付くと外は強風で雨も降っている。消灯の8時までのんびりとした時間を過ごす。

 翌朝も強風で雨交じり、ガスが広がり視界が悪い。展望荘からルート分岐ポイントの地蔵仏へ進む。ザックカバーが強風にあおられバタバタと音をたてる。ハシゴ登りなどして、しばらくすると鋭峰に着いてしまった。「これはルートミスだ!」2人同時にそう叫んだ。視界も効かずゴーゴーと強風のなかでは恐ろしい雰囲気。冷静に岩かげで風を防ぎ高原地図を再確認。「尾根を5分程度で地蔵仏」とある。戻る途中に前方から女性一人とすれ違う。その女性に「横岳から来たのですか?」と問われ正直に事情を説明すると丁寧にルートを教えて頂いた。地蔵尾根は岩尾根でクサリとハシゴが続く、雨で若干滑るが前日のクサリ場から比べれば安全なルートである。ぞくぞくと多くの登山者が登ってくる。

 しばらくすると「行者小屋」に着いた。行者小屋ではテントも数組設置してあり、頂上付近から下に見えたカラフルな色はテントだと気付く。さきほどの険悪な状況とはうって変わり賑やかな空間がそこにはあった。その後はダラダラと下り道となり記憶も薄い。いつまでも続くダラダラとなる。尾根で逃げるように下山してきた緊張感はすっかり無くなり気付くと美濃戸口に無事到着。時間にして4時間で下山できた。

 茅野駅まではローカルバス、そして中央線で小淵沢に向かいそこからは小海線で車の置いてある清里まで。
 中村さんが信州の郷土について、気動車のいろはについて熱弁してくれる中、自分はすでに「関東の山歩き100選」を見開いていた。次は3,000メートルですね!そう言う自分に中村さんは笑顔で「よっしゃ!仙丈ケ岳でどうだ!北岳か?」。さすが先輩、すでに第2弾を計画していたらしい‥。



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