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キノコ採り

新潟県

2005.11.03











Text & Photo  : 高野 智

 キノコ採りに行くのは2年ぶり。去年は予定していた1週間前に新潟中越地震が発生し、それどころではなかった。1週間ずれていたら自分たちも被害にあっていたのは間違いないだろう。何しろ震源地の真上でキノコを採る予定だったのだから。
 ニュース映像や、その後に実際訪れたりして実感したのだが、道はうねり山は崩れ、被災地の方々は本当に大変だったと思う。
 新潟の山田さんには皆で義援金を送ったのだが、お返しにと沢山のキノコをいただいてしまい、かえって恐縮してしまったのを覚えている。今回はその山田さんの誘いで新潟の山にキノコを採りに行くこととなった。

 朝早くに関越道に乗り、現地へと向かう。同乗者は神戸の赴任地から今秋帰ってきたナベちゃん。彼とは23日にもカジカ釣りに一緒に行った。遠くてこちらの仲間と遊べなかった今までの鬱憤を晴らすように、同行する機会が増えることだろう。

 関越道を走っていると、震災から1年以上経ったというのに、まだ道路の復旧工事をしている。日本の技術を持ってしても復旧に1年以上を要すほど、地震の力が凄まじいものだったのが伺えた。

 待ち合わせ場所に着くと、久しぶりの笑顔が待っていた。今年は悲しいことが多く、親しい仲間たちに会ったのは悲しい別れの時ばかり。来年は良い年であって欲しいと心底願う。

 さて、挨拶もそこそこに車でキノコの山へと向かう。今年は例年よりもキノコの出が遅れているようで、まだまだ食べ頃のが採れるらしい。このような情報は、やはり地元に暮らしている人でないと知るのは難しい。都会から「毎年今頃だから、そろそろかな」と出かけていっても、早かったり、遅かったりと空振りに終わってガッカリすることも多い。それほど自然相手の遊びは難しい。

 車を林道脇に止めて、長靴に履き替え、腰にキノコ籠をつけて準備万端。と言いたいところだが、何を血迷ったか、雨具も持たずに来てしまった。週間天気予報で「晴れ」というのが頭にあって、予報が変わっているなど夢にも思わなかった。おまけに着替えも持ってきていない。今日は気圧の谷の通過で午後にかけて天気が崩れるらしい。山田さんには呆れられるし、友野さんには「その格好が帰りにどうなってるか楽しみだな」などと笑われてしまう。久しぶりの山ですっかり舞い上がってしまったようである。とにかく降らないことを祈って山に足を踏み入れた。

 入ってすぐに山田さんの「あったぞ」の声。皆で駆け寄ると高いところにナメコやヒラタケが沢山ついている。とても手の届く高さではないが、山田さん特性の鎌が登場。伸縮自在の棒の先に小さな鎌が付いていて、それでそぎ落とすのだ。下で篠原さんとビニールシートを広げ、上から落ちてくるナメコを受け止める。落とし役を交代してやってみたのだが、木肌まで一緒に削いでしまったりと案外難しい。それでもあっという間にコンビニ袋3つが一杯になった。

 しかし、すでに他にも入っている人がいるようで、ほとんどが採られてしまった後のようだ。そこですぐに場所変えし、別の山へと向かう。

 しばらく林道を歩いていると、そこかしこに地震の爪痕が見える。半分崩落していたり、数十cm隆起していたり、凄まじい荒れようだ。しかし森に入るとそんな様子は全く見られない。ブナやコナラといった大木がしっかりと根を張り、大地をささえているようだ。その素晴らしい森でもナメコを沢山採る事ができた。

 だんだんと天気も怪しくなってきたのだが、もう一箇所渓を挟んで向かい側の山に入ると言う。テクテク歩いて到着した山は、あまり太い木も無く採れそうも無い感じ。山田さんは「絶対ある」というが、私やナベちゃん、篠原さんは半信半疑。そのため山に入るのもテレテレやっていた。
 すると一人先に入った山田さんが「あったぞー」という。どれどれと重い腰を上げ行ってみると、見事なナメコがびっしり付いた大きなコナラの木が3本も。みんな夢中になって採った。
 ここまではナメコ沢山、ヒラタケそこそこ、ムキタケちょっと、という感じであったが、他にもないかと探して歩いていると、後ろから友野さんが「どこみて歩いてるんだか。ここに一杯あるじゃない」と言う声が。振り返るとたった今歩いた足元に、沢山のナメコが出ていた。どうもまだキノコ眼になっていないようである。
 さらに立っている足元にはクリタケが沢山出ているではないか。良く見るとあっちにもこっちにも。落ち葉の下の朽ちた木から顔を出している。ナベちゃんと二人、笑いながらせっせと採った。

 籠はキノコでずっしりと重くなっていた。この後もうひと山見たのだが、それは「やめときゃよかった」といった感じの山だった。藪はすごいし、アップダウンはきつく、ヒラタケがちょっとだけしかない山だったから。いいかげんくたびれて「もういいや」と言う我々を尻目に一人で最後まで周り、しっかりナメコを採ってきた山田さんはさすがであった。
 道路に出たところに見事に紅葉したモミジがあり、それを写真に収めて今回のキノコ採りは終わった。収穫も満足できる量だし、雨もほとんど降らなかったし、久しぶりの山は大満足の結果だった。

 この後、昼飯を食べてから高速に乗ろうとしたら、いきなりの突風と横殴りの雨が来た。「山にいるときでなくて本当に良かった」とほっとする私であった。

関越道を走っていると、霧に煙る幻想的な朝日に出合った
 
関越道は今でも復旧工事で1車線規制中の箇所がある
自然にとっては、人間の作ったものなど子供が砂場で作るトンネルや道くらいのものでしかない

 
谷間には朝もやが掛かり、静かな山の一日が始まる
 
林道を行く仲間たち
背中にザックは同じだが、ビクの代わりにキノコ籠、手には竿の代わりに振り出し鎌

 
びっしりナメコの付いたコナラの木
岩魚の群泳を見つけたときのように、胸が高鳴る
渓で見つけるナメコは倒木に生えていることが多いが、ここではこのように木の高いところに多く出ていた

 
ナメコの幼菌
小指の先程の大きさの可愛いナメコが沢山出ている
これが成長すると直径5cmほどになる 
もとは目に見えないくらいの小さな菌だと思うが、それが何千倍もの大きさに育つのは神秘的である

 
森の中は落ち葉の絨毯でフカフカだった
これらが朽ち果て土となり、次世代の栄養となる

 
夢中になってナメコを採った
こうなると老若男女は関係ない

 
静かな初冬の森の中を、キノコを探して彷徨い歩く
自然に抱かれて遊ぶ幸せな時間(とき)
 
しっとりと濡れた落ち葉
踏むとサクサクと音を立てる その音に何故だか癒される

 
ちょっと一休み中
キノコを探して彷徨うのは体力がいる
山田さんなどは仕事前に採っているくらいなので、こんなのは散歩程度にしかならないが、
普段から運動不足の私などには大した運動である

 
そこかしこに秋を見つけることができる
林道を歩いていると、ヤマウルシの赤が目に飛び込んできた

 
しっとりと濡れて妖艶ささえ感じられるナメコ
 
折り重なり競い合うように生えている
なるべくゴミをつけないよう、慎重にナイフで切り取る そうすれば後の処理が楽になるのだ
 
ここにもまたナメコがびっしり
ナメコ汁にするのが楽しみである

 
足元から生えていたクリタケ
周りを見回すとクリタケだらけだった

クリタケは、柄が締まっていて歯ごたえがよい 癖の無い良いダシがとれるので、汁物、煮物などの料理に向いている
テンプラでも美味しいキノコだ

 
クリタケを採るナベちゃん
神戸ではキノコ採りなどできなかったので、嬉しくてしかたがないようだ

 
朽ちた木の根元から顔を出しているクリタケ
群生しているので、一箇所見つければかなりの量が採れる

 
クリタケは、あまり湿り気がなく、型崩れしやすい
冷凍保存するときは水に浸し、水気をあまりきらないで冷凍した方が良い

 
ヒラタケ
以前はシメジの名前でスーパーで売られていたキノコ 今はヒラタケとして売っているようだ
スーパーで売っている栽培物に比べて、天然物はもっとずっと大きくなる
ホイル焼きやバター焼き、汁物にしても美味しい

 
藪こぎの山から抜け出た場所にあった見事なモミジ
光に透ける葉がことのほか美しい

 
この葉が散り終わる前に、山は雪に閉ざされるのだろう

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