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霊峰立山参拝記

富山県立山

2005.09.17〜18

瀬谷進一、中村敏之







Text & Photo : 中村 敏之

 立山連峰と後立山連峰の狭間を流れる黒部川。その黒部川を上ノ廊下と下ノ廊下に分断する黒部第四ダムの上にその日私と瀬谷さんはいた。9月最初の連休を利用して立山に登ろうというわけだ。

 今回は1泊2日の予定の山行で、事前に「初日と二日目で天気のいいほうで立山に登りましょう。」と申し合わせていたのだが、黒四ダム・サイトに着いて立山を見上げると天気は良いのだが山頂は分厚い雲に覆われている。
「こりゃちょっと無理そうですね〜。とりあえず室堂まで行って様子を見ましょう。」ということで黒部平、大観望、室堂へケーブルカー、ロープウェイ、トロリーバスと、機動力を駆使して一気に室堂ターミナルに降り立つ。しかし、ここまで来ても立山の山頂は依然として分厚い雲に覆われたままだ。
「こりゃだめでしょう。登っても何も見えませんよ。仕方ないから今日は滝見物にしましょう。」と立山高原バスの窓口に行き、称名滝に行く切符を購入する。(注:室堂で購入できるのは立山駅まで)しかしここで、どこまでバスで行くかという問題にぶち当たった。第一案は「高原バスを途中下車し、きっつい八郎坂を歩いて往復する。」、第二案は「金に物を言わせ高原バス→ケーブルカーと乗り継いで立山駅まで行き、さらにバスで称名滝まで行く楽チン・ルート。」というもので、これを窓口の係員さんを交え相談する。結局、瀬谷さんの「なるべく歩かないのがいい。」の一言で金に物を言わせる事となった。
 が、これが大失敗!立山黒部アルペンルートの富山県側の起点となる立山駅に到着したときはちょうど昼休みの時間帯と見え(館山駅⇔称名滝は運転手さん一人で運行されているらしい。)立山駅で2時間も待たされてしまう。

 ようやくバスの発車時間となり称名川を右手に見ながらバスは走り出す。称名川はコバルト・ブルーの美しい水の流れる渓であったが、砂防ダムの多さにはびっくりさせられる。大雑把に言って100〜200mに1基あるような感じだ。両岸もバッチリ護岸されている。この辺りは土石流の多発地帯として知られているが、それにしてもかなりな数の砂防ダムだ。当然渓流魚など居ないらしく釣り人の姿は見当たらない。もっとも元々魚の住まない川なのかも知れないが…。

 途中、”悪城の壁”をバスの中から見物しつつ20分ほどで終点の称名滝に到着する。ここから更に20分ばかり歩くと滝まで行ける。
 称名滝は落差350mを誇るだけあって間近で見ると迫力満点だ。ただし全体を見るには少し離れたところにある滝見台からのほうが良いと思う。
 滝の写真撮影に夢中になり、帰りの1時間に1本しかないバスに乗り遅れてしまい、予想外に遅い時間にようやく室堂ターミナルにたどり着く。山小屋に入る時間はとっくに過ぎている。あわてて夕闇迫る室堂を足早に歩き、まわりの素晴らしい立山の夕景を横目で眺めながら本日の宿「ロッジ立山連峰」に到着した。

 明けて18日はロッジのご主人が「こんなにいい天気は珍しい。」と感嘆するほどの快晴であった。立山の主峰・雄山、大汝の山頂もバッチリ見えている。
 天気はいいのだが、なんだか頭が痛い。瀬谷さんも「寝る前にビールを飲んだから頭痛がする。」と言っている。仕方ないので頭痛薬を飲んでから出発する。(家に帰ってから調べたら、どうやら二人とも高山病だったようだ。)
 しかしこれがまずかったらしく、歩き出すと妙に体が重い。緩やかな登りでも足が前に出ないのだ。といっても今更どうにもならないので、体調と相談しながらゆっくりゆっくり「大走り」を歩いて行く。
 ゆっくりとではあるが着実に距離と高度を稼いで行くと、次第に立山カルデラの素晴らしい景色があらわになってくる。こうなってくると写欲を抑えきれず度々立ち止まっては絶景をカメラに収める。最初はカメラをバックから取り出して撮影し、撮影し終わったらバックにカメラを仕舞っていたのだが、立ち止まって振り返るたびにどんどん景色が素晴らしくなってくるのでそんなことをしていたのでは間に合わなくなり、最後は手にもったまま(ストラップを首にかけて)歩くようになってしまう。カメラは結局、終着の室堂ターミナルに着くまで手に持ったままだった。

 明け方は雲ひとつない天気だったのだが、いつまでも雲が出ない訳もなく何時の間にやらガスが出てきてしまう。といっても急ぎようがないので「山頂に着いたときにはガスが切れていますように…。」とお祈りしながら登る。
 「大走り」の最後の急坂を上がるとそこは富士ノ折立だった。ここは今まで登ってきた静かな「大走り」と違って、立山(雄山)〜大日岳の主ルートに当たるため大勢の人で賑わっていた。小腹が空いたので、眼下に見える黒部湖なぞを眺めつつ弁当を平らげる。

 ガスが出たり晴れたりを繰り返すトレイルを今度は立山の最高峰・大汝を目指し歩き出す。途中急なところもあるが大した苦労もなく20分程で大汝山頂に到着した。生涯で初めて標高3000m地点を踏んだ感慨に浸りつつ大汝休憩所のコーヒーを飲んでみたりする。先のお祈りが利いたのか、大汝と雄山では幸いにもガスに包まれることなく展望を堪能できた。

 大汝山頂で記念写真を撮ったあと次は雄山を目指す。こちらも大した時間もかからずに到着する。
 雄山山頂には霊峰立山の象徴「立山神社」の本社があり、参拝料(500円)を収めないと雄山の真のピーク3003mに立ち入ることができない。「せっかく来たのだから…。」ということで500円也を支払って山頂の神社に行き、お払いを受けることにする。
 待つこと10分、ようやく順番が回ってきた。結構危険な参道を辿り社の前の広場に行く。決して広いとは言えない場所にたくさんの人を入れるもんだから、後ろの方の人は広場から落ちそうになっている。落ちたらただじゃ済まないのだが…。

 お払いも無事終わりあとはもう山を下り、帰るだけになってしまった。登っている最中は苦しいこともあったが、いざ帰るとなると帰るのが勿体無くなってきた。「当分この景色は見られないのかも知れない。それどころか、もしかしたらもう二度とこの地を訪れることはない場合だって…。」と思うと無性に帰りたくなくなってきた。瀬谷さんも同じ思いと見えて「ここは一泊じゃ勿体無かった。もう一泊したいね。」などと言っている。しかし急に予定を変えることもままならない。名残を惜しむようにゆっくり歩いて景色を目に焼き付け、想いを振り切るように勢い良く室堂ターミナルに飛び込む我々なのであった…。

黒部湖
黒四ダムから見た立山。
山頂は雲で覆われている。
黒部ケーブル。
すれ違うときのスピードは意外なほど速い。
ポスター等でお馴染みのタンボ平。
「立山は九月上旬から紅葉が始まると言うから、もしかしたらチョットぐらい紅葉してるかも…。」との淡い期待を裏切り、山はご覧のように青々としていた。
室堂ターミナル。
大勢の人で賑わっていた。
快晴の立山道路をバスは行く。
観光スポットで徐行したり、止まったりしてくれるので絶景を見逃すことは無い。
称名滝にて
幻想的な雰囲気のミクリガ池
地獄谷。
かなり硫黄臭がする。
リンドウ池
夕暮れの室堂平を行く
出発前にロッジ立山連峰前で記念撮影
雲ひとつ無い日本晴れの雷鳥平。
正面の建物がロッジ立山連峰。左が雷鳥沢ヒュッテ。手前が雷鳥沢キャンプ場。
絶景をビデオに収めながら登る瀬谷さん
大走りを着実なペースで登る。
「結構登ったねぇ…。」と感慨にふけりつつ雷鳥平を見下ろす瀬谷さん。右は奥大日岳。
奥大日岳。
左右に富山平野の街並みが見えています。それにしても頭が雲にぶつかりそうです。
奥大日岳の右側
j奥大日岳の左側
標高3000mに近いこんなところにもキノコは生えていました。
周りの気圧が低くなったためパンパンに膨らむ菓子の袋
富士ノ折立(2999m)から黒部第四ダムと黒部湖を望む
大汝山頂(3015m)にて。
後の標柱には何事か書いてあったがかすれていて読めない。
「ど〜ですこの景色!」と瀬谷さん。大汝山頂にて
大汝山頂を見上げ物思いにふける瀬谷さん。
標高3000mで飲むコーヒーのお味はいかがでしたか?
御前沢カール。
雪渓が残る。
雄山神社はこんなところに建っている。
よくぞこのような場所に立てたものだ。
3連休とあって雄山山頂は大賑わいだ。
雄山神社でお払いを受ける。
立山カルデラをバックに
湧き上がる雲をビデオに収める瀬谷さん。
室堂ターミナルから雄山へのルートは途中、このような急なガレ場を300mも登らなくてはいけない。下るのだって容易ではないのに、登るとなったらそりゃあもう大変である。途中でギブアップする人もいる訳である。
浄土山。点々と雪渓が残っています。
ごく一部では草紅葉も始まっていた。
赤い実をつけたナナカマド。
立山の秋はもう目の前だ。

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